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失恋ホストが読む『余命一年、男をかう』「ダメなんだけど憎めないホスト、うちの店にもいます」

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失恋ホストが読む『余命一年、男をかう』「ダメなんだけど憎めないホスト、うちの店にもいます」

吉川トリコさんの最新作「余命一年、男をかう」は、タイトルの通り、余命一年と宣告された主人公・唯が、ひょんなことから出会ったホスト・瀬名リョーマのトラブルを、ためにためていた貯金を使って解決してあげるところから物語が始まる。この物語を実際のホストが読んだら、何を思うのか? みずからも、文学フリマで「ホストの本気の失恋」をテーマに同人誌を出版した「失恋ホスト」たち3人にその思いをつづってもらった。第2回は一条ヒカルさん。

ホストである前に、人間

初めまして、一条ヒカルと申します。
僕は元々歌舞伎町でNO.1ホストをさせて頂いていました。
自分の勤めている店舗で売上NO.1をとれば、「歌舞伎町NO.1ホスト」と名乗る人も沢山居ます。
僕の場合は「歌舞伎町NO.1」という名の通り、事実その時代にホスト業界で日本一売れていた自信があります。

4年連続年間売上1億円突破、年間指名本数1700本突破、25ヶ月連続月間売上1000万突破など、その時代の業界でNO.1だった実績があります。
その経験を活かし、今では歌舞伎町で5店舗ホストクラブを経営し、グループ全体では札幌から東京、横浜、福岡まで15店舗展開をしています。

僕がホスト業界で本気でNO.1になりたいと思ったきっかけが、悔しさです。
この仕事に対する偏見と、間違った仕事をしているホストが勝っているのが許せませんでした。
10年前のホストクラブは今よりもっと素行が悪かった。僕の所属する「group BJ」ではその時代からホストである前に人として、礼儀礼節マナーやモラルを徹底し、男としてビジネスマンとして正しい生き方を教えてくれました。

僕は純粋に「group BJ」のホストの仕事に惚れ込んでいて、この生き方が正しいと認められたら業界が変わるのでないか、と思っています。そしてその為には実績が必要でした。まだ歌舞伎町で名もない時からずっと、「ホスト業界をより良くしたい」と走り続け、今でもそう願い仕事しています。

失恋ホストが読む『余命一年、男をかう』「ダメなんだけど憎めないホスト、うちの店にもいます」

そんな僕が今回『余命一年、男をかう』を読ませて頂きました。
ホストのリューマに対して、「教育したい」という感情にずっと震えていました(笑)。

プロの目線で言わせて頂くと、リューマのした事はホストとしては爆弾行為。
絶対にやってないけないことです。
出会った時にお客様ではなかったとしても、女性からお店の外で金品を受け取る行為は「裏っぴき」と言ってホストとしては重罪です。
それがお客様なら尚更。

ホストとヒモは違います。
僕たちホストは、お店で楽しんでいただく対価としてお金を頂いています。
お客様が笑顔でお店から帰って行く、幸せな気持ちになって、プラスな気持ちを持って帰っていくのがホストクラブです。

お店の外でお金を貰うのは、プロとして失格なのです。
今回リューマがとった行動はヒモ寄りでした。だからリューマは……など勝手に上司になったつもりで彼を頭の中でミーティングしている自分がいました。
それぐらい放っておけない、悪いやつじゃない、リューマの可愛さに僕も魅了されていました。
その辺が凄くリアルに感じました。

従業員にも、こんなホストいるなぁと。

リューマが唯さんにホストクラブに来るお客様について話す会話で、「生きるためにホストクラブにやってくるんだ」という一言があります。
その言葉に僕も共感し、改めてホストクラブという仕事の存在意義を考えました。
そしてお客様にそう思えるリューマだからこそ、あんな感情が芽生えたのだと思います。
僕らはホストである前に人間です。
感情もあるし、むしろ義理人情を大切にします。

お客様に惚れる事だって多々あります。
僕も当時のお客様で大金を使って頂いていた方とは、恋人では無い、嫁でも無い、友達でも無いし家族では無い。しかし、新しい異性の存在として近くにいる男性には相談出来ない事を今でも聞いたりしています。
お金はかかりますが、ホストは「都合の良い男」、「メンター」とも言って頂けます。
それも「お金で男をかう」メリットの1つなのかもしれません。
リューマと唯さんのようなエンディングを迎えられた最大のポイントは、リューマの人間性だと僕は感じます。
ホストである前に人として大切な生き方をしているからこそ、幸福に近づいたんだと。
この小説は僕にとって、ホストの教育者として今後も身を入れていく糧になりました。
僕らの仕事は黒にも白にもなり得ます。人のお金に関わるという事は人生に関わるという事。
応援して頂いたお客様が不幸にさせるのはプロではありません。
生きるためにホストクラブに来られるお客様と共に生きるホスト達のためにもホストクラブ経営者としてやれる事をやっていきます。

読んだのはこの本

「余命一年、男をかう」
吉川トリコ 講談社 1650円

幼いころからお金を貯めることが趣味だった片倉唯、40歳。ただで受けられるからと受けたがん検診で、かなり進行した子宮がんを宣告される。医師は早めに手術を勧めるも、唯はどこかほっとしていた――「これでやっと死ねる」。
趣味とはいえ、節約に節約を重ねる生活をもうしなくてもいい。好きなことをやってやるんだ!と。病院の会計まちをしていた唯の目の前にピンク頭のどこからどうみてもホストである男が現れ、突然話しかけてきた。「あのさ、おねーさん、いきなりで悪いんだけど、お金持ってない?」。
この日から唯とこのピンク頭との奇妙な関係が始まる――。

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執筆したのは……
一条ヒカル/歌舞伎町に本店を置き、札幌、福岡、東京、横浜と15店舗展開しているホストクラブgroup BJ所属。2021年春、ホストの本気の失恋をつづった同人誌「失恋ホスト」を出版。

第1回はこちら
失恋ホストが読む『余命一年、男をかう』「僕なら女に金を貸してくれとは言えません」

イラスト/shutterstock

Edited by 石井 亜樹

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