連載 VOCE特別インタビュー

荒木経惟「時代の女になりなさい」アラーキーの名言

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荒木経惟さん 愛バナ

写真家、荒木経惟のVOCEの長寿連載「愛ノ説明」がこのたび1冊の本にまとめられた。タイトルは『愛バナ』。VOCE読者を“感度のイイ女”と呼んで、愛とか情とか不幸とかキレイとか、人生にまつわる真実の一番面白い部分を言葉と写真とで掘り下げてくれた荒木さん。書籍の刊行に寄せて、VOCE読者に今一番届けたいメッセージとは?

VOCEで20年間続いた連載でアラーキーが伝えたかったこと

荒木経惟さん
2001年11月号から2020年12月号まで続いた、長寿連載! 掲載されたすべての号を撮影してみると、じつに230冊に及んだ。撮影/金 栄珠

イェー、壮観だねぇ〜! この写真、約20年続いた230回分の連載を並べて、俯瞰で撮ったものなんだって?「愛ノ説明」は、アタシにとっても“日記”っつーか“月記”のようなものだったからね。2019年に1970年代に撮った写真の説明をしていたとしても、ページの中には、必ず今の気分が入り込んでいたはずなんだ。だいたい連載が始まった頃は、デジタルカメラも一応登場はしてたけど、まだまだ雑誌でも広告でも、フィルムカメラのほうが主流だったんじゃないか。それが、アタシのページ以外はいつの間にかデジタルが当たり前になって、どんどん、モデルの肌がツルツルになっていった……ような気がする(笑)。

そう考えると、よく20年も続いたと思うね。ほら、アタシは昔からディテールを撮るのが好きで、そのディテールっていうのは、街で言えば裏側とか、空にかかる電線とか、染みとか、チリとか。そういう汚れた部分、一見すると邪魔な部分に、人間と街の関わり合いが写っているように感じて、面白いと思ってしまうほうだから。そういう意味ではアタシの写真は、キレイがテーマのVOCEみたいな雜誌には、あまり似つかわしくなかったかもしれないね。

愛バナ

でも、だからアタシは主張してきたの。デジタルで撮影したポートレートのシミとかシワとかホクロとか、被写体の持つディテールを、何でもキレイに消しちゃう風潮は好きじゃないって。何年か前に中国で出版された本なんか、こっちは一切取材されていないのに、雜誌のインタビューなんかを勝手に引用して、アタシの文章として掲載してるわけ。写真だってデータに取り込んでるもんだから、勝手に修整するんだよ! 参っちゃうよ。後になってその本を見せられて、文句言うんだけどね。「俺の写真は、こんなにキレイなだけのダサい写真じゃないゾ!」って(笑)。

キレイすぎる写真の何が良くないかっていうと、面白くないことだね。歴史も物語も何にも写らないから、「いつまでも眺めていたい」っていう気持ちにならない。あまりに嘘っぽすぎて、「この世界に入ってみたい」と思わない。要は、写真とカンケーできないんです。

広告写真なんか、ただでさえキレイにメイクしてデジタルで撮ってるのに、そこにさらに修整を加えてたら、最後はもう別人ですよ(笑)。見る側も、ここまできたらさ、「写真は嘘だ」って前提で見ればいいんだよ。写真に騙されている世の中を面白がればいい。そもそも、コミュニケーションなんて、嘘つかれて騙されて、勘違いすることが前提なんだから。“騙されて勘違い”なんて、恋愛そのものだろう?(笑)

デジタル写真が全盛になってからは、女優なんかがちょっと老けた顔に写ると、すぐ“劣化した”とか騒ぐらしいじゃない? でも、そもそも見る側に情とか思いがあれば、人のシワなんてむしろ魅力的に感じられるはずなんだよね。なのにデジタルっていうのは、そういう情や思いを取っ払って、キレイの物理的で客観的なデータばかりを羅列していく。直接その人に会ってみると“魅力的なシワ”に感じられたものが、デジタル写真を通して見ると、“医学的見地からしてただのシワ”みたいになっちゃう(笑)。

街の裏側、チリに染み。そういうのに惹かれるから、アタシの写真はすぐセンチメンタルになっちゃうけど、それがつまりデジタルに写らない“情”ってことなんだろうなぁ。

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煩わしいタワシで肌を磨け!

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