いろいろな感覚を“覚えておく”のではなく
“思い出せるようにしておく”
俳優として目指すところは?と問えば、「どういうお芝居がというよりは、その佇まいのみで場面の空気を自分のものにできる存在」だ。どうしたらそうなれるのか、方法さえ想像がつかない目標のために板垣さんが必要だと思うのは、人生において「いい経験をすること」。そしてその経験がいつでも取り出せるよう「保存しておくこと」だ。
「ほんと感覚的な言い方にはなるんですが。絵を描くことにも似ている部分があるんですよね。よく「何を書いているんですか?」と聞かれるんですが、“これ”というものはないんです。ただ日常生活の中で、見たり聞いたり、どこかに行ったりした時に覚えた感覚が、“小さいかけら”になって、しまってある引き出しがあるんですよね。絵を描く時は、そういうものを取り出して、紙の上に乗っけていく。芝居もそういう感じで、『演じるのはこの役です』となった時に、そういう引き出しの中のかけらを取り出し、集めながら固めていくという感じです。でもそういう経験は、“板垣李光人”という人間の中に蓄積されているわけじゃないんですよね。『こういうことがあったよね』っていうのを、どこか別の場所にある倉庫みたいなところにしまっておく、というか。“覚えてる”とか、ずっと自分の記憶の中に“とどまっている”というんじゃなく、必要な時に材料として使えるよう、思い出せるようになってる、っていうか。これ、伝わりますかね(笑)?」
『カラフラブル』で演じる相馬周(めぐる)役は、自分と他者を肯定し、「自分は自分」とペースを崩さない。ほとんど自分のままで演じている役だ。対して「倉庫から材料を集めて固めた」役と語るのが、今年の1月に放映された『ここは今から倫理です。』の都幾川幸人である。
「自分が学生時代に見てきた同年代の人たちを思い出しながら……でも、マネして演じている感じになっちゃいけないと思っていたので、その加減が難しかった。家庭に問題を抱え、心に傷を負っていた複雑な役で、すごく大変でしたが、大変だからこそ楽しかったです」
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今の状況を維持するためにどうすべきを考えている