連載 メンズメイク入門

男性もメイクを知れば、「容姿いじり」なんて口が裂けても言えない【人気美容アカウントに直撃】

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男性もメイクを知れば、「容姿いじり」なんて口が裂けても言えない【人気美容アカウントに直撃】

メンズメイクという未踏の地に足を踏み入れ、スキンケアに始まり、メイクをひと通り体験してきた筆者。見聞を広めるため先達を訪ねるシリーズ3回目は、スキンケアを中心に美容を通して得た気付きを発信するTwitter人気アカウントのさかなさんを直撃!

【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

自己肯定感が低いからこそ美容アカウントをやる

美容は毎日同じことの繰り返しです。特にスキンケアは地道な努力。ケアしても肌は劇的に変化するわけではないし、変わるとしても悪い方向だったりする。なかなか治らない肌荒れにひとりきりで向き合っていると、気が滅入ってくるのもたしかです。

SNSの美容アカウントは、そんな孤独に寄り添ってくれる存在です。SNSを開けば、悩んでいるのは自分だけではないと分かる。新作コスメの正直なレビューや、流行のテクニックを知ることもできる。いまや、美容業界を動かしているのは彼/彼女たちだといっても言い過ぎではなさそうです。

そこで、美容について発信しているさかなさん @yaki_sakana12(24歳)に、発信を続ける理由や、アカウント同士の連帯についてお話を伺いました。

「SNSでの発信は、美容に関するつらさや楽しさを伝えたくて始めました。じつは、美容アカウントには自己肯定感の低い人が多いんです。スキンケアは体調や気候のほか、影響する要素がたくさんあるので、努力しているつもりでも肌の状態がよくならなかったりします。『あの人は一ヵ月でよくなったのに、どうして自分はどれだけがんばってもよくならないんだろう』。そんなつらさが美容にはつきものなんじゃないかと思います」

「他人のためにやっているんじゃないとは言いつつも『自分も自己肯定感が低いけど、一緒に頑張ろう』と言ってくれるつながりがあると、ほっとするんじゃないでしょうか。みんなでやるからできる、そんな側面が美容アカウントにはある気がします」

なるほどと思いました。セルフケアは孤独と背中合わせ。自分のペースでできる気楽さはありますが、思いつめてしまうつらさもある。そんなとき、SNSのゆるやかなつながりはちょうどいいかもしれません。

成分だけでコスメは語れない

最近、さかなさんが力を入れているのが、手と爪のケアです。

「ネイル専用のオイルを、指が濡れるたびに塗っています。乾燥を防ぐことで、爪にしわが入りにくくなるんです。料理や皿洗いをするときはゴム手袋をはめる。ハンドクリームも欠かしません。寝るときはシルクの手袋をつけます。そうすると水分が逃げないので、手がすべすべになります」

「爪切りをネイルファイル(爪やすり)に変えると効果がありました。爪切りだとどうしても爪に負担がかかるので、削るんですよ。爪が生え替わる周期はおよそ六ヵ月ですから、根気強く育てると、半年後には爪が本当に綺麗になります」

これは、並の努力ではないと思います。きっかけを訊くと、こう答えてくれました。

「Twitterに写真を載せたとき、写り込んだ手を『綺麗だね』と言ってもらえたことがきっかけでした。それまで外見を褒められる経験をあまりしてこなかったので、シンプルに『これは嬉しいぞ』と。それで、手の綺麗さを磨いていこうと思ったんです。綺麗になると、それを人に伝えたくなりました」

元々ハマりやすい性格だったというさかなさんは、推していたアイドルのために中国語を習得したこともあるそうです。中国のコスメに関するお話のなかで、面白かったのが「成分党」の話です。

「いまは化粧品の成分や効能について詳しく発信する人が増えました。中国では『成分党』と呼ばれています。私も成分検定一級を取って、視野が広がりました。でも本当は、成分だけでコスメは語れない。Twitterで見たたとえですが、卵と白米という材料を同じだけ使っても、卵かけご飯やオムライスができたりしますよね」

化粧品広告よ、そこに愛はあるのか?

成分に詳しくなるにつれ、化粧品広告のなかに悪質なものが含まれていることに気付いたさかなさんは「そこに愛はあるのか」と語ります。

「アイテムは素晴らしいのに、広告がよくないケースがあります。本当にもったいない。成分を過剰に強調するなど、いわゆる『釣り』っぽい表現で、本来下がらないはずの評判を下げていることがあるのではないでしょうか。ビジネスの論理も分かりますが、まず化粧品に対する愛やコンセプト、守るべきブランドイメージがあるのではないかと思います」

最後に「メイクを通じて、人との関わり方は変わりましたか?」と質問しました。

変わりました。『メイクを始めてから完全に理解したのですが、女性に「今から遊びに行こう」と誘うのは本当に大罪』というツイートがバズったことがあります。メイクすることが大変な女性の気持ちが分かったと自分では思いました。
また、男性のコミュニティですごく軽々しく女性の容姿について品評するケースがありますよね。そういったことは、もう絶対、口が裂けても言えないと思います。

それに、男性はまだメイクが社会規範になっていないので、やりたいときにやればいいし、やらなくてもいいじゃないですか。でも、女性はメイクをほとんど強要されています。それは、本当に大変なことだと考えるようになりました。だから、スキンケアやメイクを通じて、少なからず行動や考え方が変わったと思います」

美容の苦しさを知っているから、容姿いじりなんて口が裂けても言えない。スキンケアは一人ひとりの戦いかもしれないけど、みんなで一緒に「ひとり」をやることはできる。ここには、愛があると思います。

こつこつ地道に向き合うほど、自己肯定感が下がることもあるのが美容やメイクの難しいところです。成分表からキャッチーな広告まで、多くの選択肢があるからこそ「結局何がいいの?」と迷ってしまうのは私だけではないでしょう。さかなさんをはじめとする美容アカウントの方々は、その「孤独」を知った上で「愛」を発信してくれるからこそ、たくさんの人に支持されるのではないでしょうか。

筆者愛用のネイルカラー

※写真左から

撮影・文/鎌塚亮

Edited by 大森 葉子

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