【執筆したのは……】
鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門
男性美容部員は、まだまだ少ないのが現状
私がメイクを試し始めた当初、メイクについて相談できる相手は女性だけでした。日常的にメイクをしている男性は少ないし、話題にするのも勇気がいるのが現実です。男性の美容部員(BA)もいると知ったのは、初めてタッチアップに行ったとき。頼れる同性のプロはちゃんといたのです。そこで、今回は「FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー)」NEWoMan新宿店の浦田大樹さん(29歳)にお話を伺いました。
学生時代はダンスに打ち込んでいた浦田さんは、大学を卒業後に美容学校へ入ったそうです。メイクに出会ったのも、ダンスを通じてでした。
「友達にBBクリームをプレゼントされたんです。使うと肌がきれいに見えるので、自信になりました。ダンスのステージに立つときは華やかなカラーメイクをすることもあり、メイクが身近にあったんです」
美容専門学校では、ヘアカットやメイク、着付けなどもひと通り学ぶそうです。専門を決めるとき、性別によって進路の違いが出るとのこと。
「メイクを選ぶのは女性の方が多いです。ヘアは男性の方が多いですね。そもそも、美容部員になりたがる男性が少ない。男性の美容部員は目立つかもしれません」
プライベートでは、浦田さんは自社の下地とファンデーション、コンシーラーなどのベースアイテムのあとに、眉を描くか、描かないかだそうです。しっかりアイメイクまでするのは仕事のとき。もしかすると浦田さんにとって、カラーメイクは一貫して「舞台に立つとき」にするものなのかもしれません。
そういえば、私も日常的に使っているのは日焼け止めにもなる下地がメイン。色を使うのは、いわゆるドレスアップするときです。いつの間にか、そんな使い分けができていました。
メイクは生活の技術。いつ始めたっていい
「男性のメイクが爆発的に普及し始めたのがこの2、3年のできごとです。ボリュームゾーンは20代、30代ですが、10代後半から50代以上の方まで、幅広いお客様がいます。私自身、若い人がメイクをしているという先入観があったんですけど、先日も『同窓会に行くからシミを隠したい』と50代のお客様がいらっしゃいました。メイクを始めるのに、年齢なんて関係ないんです」
意外だったのが、元々おしゃれで意識の高い人ばかりではないこと。
「メイクをしないことが男らしさの証だったり、ノーメイクでも気にしないのかと思いきや、実はスキンケアに悩んでいたりする。『きれいになりたい』と思っている人がこんなにも多いんだ、と驚きました。男性の身だしなみの一環としても、肌はきれいな方がいいと考えられるようになってきたのかもしれません」
つまり、そもそもきれいになりたい男性はたくさんいた。そこにメンズメイクがハマった。その順番なのではないでしょうか。
では、その美容の目的は何か。浦田さんによると、休みの日のおしゃれや、ふだんのスキンケアの延長でメイクする人もいれば、ビジネスマンとして印象をアップさせたいとか、就職活動のためにメイクする人もいるそうです。興味深かったのは「ナチュラルな仕上がりを希望する人が99%」であること。
「単純にバレたくないというより、何もしていない風に見せたい。もとの素肌をきれいに見せたいと考える人がほとんどです」
そして、初めてメイクする人にも、上手い人と下手な人がいるそうです。
「中高年のお客様でも、『あれ、以前からメイクの練習をしていたのかな?』と思うくらい上手な方がいます。でも、知識や経験はないようなんですよ。だから、メイクの才能ってあるんだと思います」
これを聞いてハッとしました。メイクは技術なのです。すると、向き不向きがあるのも当然。得意な人、好きな人、必要な人はその技術を利用すればいいし、そうでない人に押し付けるのは非合理的とさえ言えます。これは、料理や読書などの諸芸とおなじ。つまりメイクは、生活を豊かにし、私たちを自由にしてくれる技術(リベラルアーツ)のひとつなのです。
ライフスタイルとしてメイクをとらえてみる
そんなメイクのありかたの一例として、ネイルする男性が増えていることも教えてもらいました。
「最近、ファッションに気を使っているわけではないけれど、ネイルをしたい男性が増えています。リモートワークの際、パソコンのキーボードばかり眼に入るからだと言うんです。一度塗り始めたらハマるみたいで、いくつもカラーを買い足す方もいます」
「指先がきれいだと、ひとに良い印象を与えることがあります。自分のために爪をケアしながらも、褒められるとやっぱりうれしい。そうして、継続的にネイルをする方が増えているんじゃないでしょうか」
本当は、メイクを「自分のため」「他人のため」とはっきり分けることは難しいのですね。だからこそ、マーケットの思惑や、「らしさ」のステレオタイプに利用されてしまうこともある。でも、ネイルのエピソードには感動しました。ここには、無理のない、ライフスタイルとしてのメイクがあるように思ったのです。
「いまは、外見だけではなくて、表からは見えない情報も発信できる時代。ブランドのモデルも多様性が重視されています。もはや、一律な見た目ですべてが決まるような、外見主義の時代ではないんだと感じています」
BAを職業にしている方が、はっきりとルッキズムを否定する。それは、外見のコントロールによる競争よりも、より良いライフスタイルの提案を重視する態度の表明です。本当にそうだなと思うので、私も「みんなメイクしよう」ではなくて、「メイクのある生活も悪くないよ」という言い方をしようと思うのです。
初めてタッチアップしてもらった時に購入した、ミラークールタッチ バー。
撮影・文/鎌塚亮
Edited by 大森 葉子
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