連載 メンズメイク入門

「モテ」は今っぽくない。変わりゆく男性美容の世界【美容エディターを直撃】【連載第12回】

更新日:

【美容エディター・インタビュー】「モテ」は今っぽくない。変わる男性誌の世界【連載第12回】

メンズメイクという未踏の地に足を踏み入れ、スキンケアに始まり、メイクをひと通り体験してきた筆者。続いて、見聞を広めるためメンズメイクの先達のもとへ。たくさんの気づきに、新たなる第一歩を踏み出す!

【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

コンプレックスと美容

今回から、メンズメイクを実践している方に話を聴いていくことにしました。ひとりでメンズメイクを試していくだけでは、なかなか世界も広がりません。ひとはどんな考えで美容をおこなっているのか、もっと聞いてみたいと思ったのです。

最初にお話を聞いたのは、美容エディター・ライターとして活躍する与儀昇平さん(29歳)。自身の美容はスキンケアが中心なものの、メイクも行っている。その原点には、「薄い顔」への憧れがあったそうです。

「僕の大きなコンプレックスとして、沖縄出身だということがありました。高校生のときは、国際通りのスターバックスで修学旅行生を観察するのが趣味だったんです。『いま、東京ではこういうのは流行っているんだな』とか『スクールバッグって手に持つんじゃなくて背負うものなんだ』とか。本州の人の薄い顔に憧れて、毎日どうすれば薄い顔になれるかを考えているような子供でした」

しかし、最近は考えが変わってきたといいます。

「なれるものなら綾野剛さんや坂口健太郎さんみたいになりたいですけど、それが無理なら、なれる範囲でかっこいい自分をめざしたほうが絶対いいなといまは思っています。昔からギャルに対する憧れもあったので、最近は『いっそギャルになっちゃおう』みたいな気持ちになってきたんです」

元々ひげが濃く、カミソリ負けもあったことから、与儀さんは全身脱毛も試してみたそうです。すると、生活の質が格段に上がった。家の中に髪の毛以外の毛が落ちない。夏に短パンを履くとマイナス二度くらい涼しく感じるなど、いいことづくめ。

「もちろん、毛があるほうが好きな人は残してもいい。でも僕の場合は脱毛によって気持ちよく過ごせるようになって、自分を好きになれた」

与儀さんは、「80年代だったら、いまの顔に生まれて『イエーイ』て感じだったのかもしれない」とも語りました。

「濃い顔」が流行するときもあれば「薄い顔」が流行するときもあります。私たちはその影響で自分を好きになったり、嫌いになったりさせられてしまう。言いかえれば、顔や身体を捉えることに、流行が介入してくるとも言えるでしょう。ならば、美容は流行に適応する手段に過ぎないのでしょうか。

いいえ、与儀さんの話を聴くと、それだけではないと感じます。与儀さんは、脱毛やメンズメイクといった方法を通じて、「好きの基準」を取り戻しているように思うのです。

「モテ」は今っぽくない

与儀さんによれば、いまの10代後半から20代前半の若者は、とても「生きやすそう」に見えるそうです。

「『モテ』は商業的には手堅いのですが、リスクもあります。『いつまでもモテなんて、古いよね』と思っている人もいっぱいいる。今の若者は『モテ』よりも、好きな音楽やファッションの話をしている人のほうが多い。『自分が楽しんでいればそれでいいよね』みたいな、この世代の平和な雰囲気がすごく羨ましい。2020年に高校生だったとしたら、もっと生きやすかっただろうな、というのが正直あります」

だから、仕事をするときも「美容をやっていることが正義、とはしたくない」。やってみると楽しいよと提案する。メイクでもスキンケアでも、食わず嫌いせず、一回やってから考えてみれば?と。

さらに「若ければ若いほど、メイクに対する抵抗が明らかに薄くなっているように思います」とのこと。たとえば、一緒に歩いているカップルが、片方のメイクを「ファンデーションよれてるよ」と直したり。

Clubhouseでも、「『メイクをしている男性なんですけど、皆さんはどう思われますか』というルームで、『何もしていないより、きれいでいようとしている方が絶対良くないですか?』という反応が多かった。もしかしたら建前なのかもしれませんけど、昔に比べて、肯定することが良しとされている雰囲気があると感じました」。

やっぱり、KPOPの影響はあるのでしょうか?と質問すると、YESとの答え。

「シャネルのジャケットにグッチの細いパンツを履いた、がっつりメイクの男の子たちがかっこよく踊っていると、やっぱり憧れますよね。着飾ることが楽しそうに映るのかなと思います。男が装ってこなかった世代に反発しているわけでもなく、やりたいからやっている。昔ほど、男らしくあれ・女らしくあれというムードでは絶対ない」

興味深いのは、そういったポジティブな傾向を、与儀さんが言葉を選びながらも「建前」「雰囲気」「ムード」と表現したことです。

私は、もしかしたらみんな空気を読んでいるのかもしれない、と思いました。本来なら、メイクに対して好き嫌いがあるのは当然です。心の中で「そういうの好きじゃない」と思ってもいい。しかし、それを発信し、誰かを否定することが許されない空気があるのではないでしょうか。各々の価値観が変化しただけではなく、他者のありようを肯定する、ある種の「礼儀」が共有され始めている。それは、新たな流行でもあるでしょう。

次ページ
男性のカラーメイク

こちらの記事もおすすめ

    You May Also Like...

    あなたにおすすめの記事

      Serial Stories

      連載・シリーズ