【執筆したのは……】
鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門
誰も「顔」について教えてくれない
スキンケアやメイクをすることは、自分の顔に詳しくなることです。水分、ツヤ、気候の影響、体調との関係。自分の肌に映えるのは何色か。それは他人から見てどうか。自分はそれが好きか。一通りのパーツメイクをやってみて気づいたのは、「私は自分の顔を分かっていない」ことでした。洗顔料で肌荒れする、必要以上にベースメイクをしてしまう、ウェブ会議で滑稽に映る……。
「顔を知る」ためにはどうすればいいのでしょうか。最終的には、鏡を見て指で触れるだけで、感覚的に顔の調子がつかめるようになりたい。というのも、自分では「今日はむくんでいる」「太った」「クマがひどい」などの判断がうまくできないのです。
知人男性には、顔が皮膚炎を起こしていることを、家族に指摘されて初めて悟った人がいます。EXITのりんたろーさんは、敏感肌を自覚していたものの、「洗顔したら顔が赤くなる」ものだと思っていたそうです。(「りんたろー。敏感肌克服スペシャル・キット大公開!【連載第3回】」参照)そのくらい、顔の知には個人差があります。それは、誰も顔について教えてくれないから。人によって顔は異なるからです。男性はとくにその傾向があります。
スポーツや芸術、仕事にも共通することですが、感覚的に物事をこなせるようになるためには、時間をかけた経験が必要です。具体的には、大量にインプットし、それを表現に反映させること。たくさんメイクして、色んな人に見てもらうことでしか、メイクはうまくならないでしょう。しかし、今は店頭でのカウンセリングも限定されているし、メイクをして外出すること自体がむずかしい状況です。
そこで、オンラインやアプリでできるカウンセリングを試してみることにしました。取り急ぎ、自分の肌が乾燥しがちなのか、それとも脂っぽいのかくらい知っておこう。最近になって、「おや、冬って乾燥するのでは?」と発見したレベルの私ですが、「顔」についての解像度をできる範囲で高めてみることによって、見える景色が変わるように思ったのです。
オンラインカウンセリングってどうですか?
選択解答による肌診断、カメラで顔を撮影する記録アプリ、AIとオペレータによるオンラインカウンセリングをやってみました。その結果を総合すると、私は乾燥肌でも脂性肌でも混合肌でもない、普通肌だそうです。くすみやしみは年相応ですが、目の下のクマがちょっと目立つらしい。面白い! 言われてみればその通りです。
興味深いのは、診断するメーカーによって、顔の捉え方が異なることです。シワ、キメ、しみ、毛穴、うるおい、透明感。肌年齢、肌質、色味。それらを点数化してくれるサービスも多いですが、診断するたびに違う点数が出ます。
考えてみれば当然で、こういったサービスでは、顔についてごく限られた要素しか測ることができません。表情や雰囲気、感情や温度も無視されています。本当は、人の肌なんて千差万別ですよね。だから、点数や診断をうのみにするのではなく、あくまで目安として使うのがよさそうです。
毎日少しずつ顔は変化していますから、スキンケアは庭いじりみたいなもの。だから、時間経過に伴うコンディションの変化を把握することが本道のように思いました。つまり、「点」ではなく「線」で顔をとらえるために使う。
気に入ったのは、AIとオペレータが協働で質問に答えてくれるオンラインカウンセリングです。「問い合わせチャット」のような形式で、お互いの顔は見えません。人見知りの私にとって、店頭で美容部員の方に話しかけるのはハードルが高かったのですが、これなら気楽に利用できる。
「普通肌男性で、クマがあるんですけど、どうすればいいですか?」と訊いたところ、「スポットで使えるブライトニング美容液がおすすめです」と、バシッと教えてくれました。知識や経験のある方にとっては物足りないかもしれませんが、私くらいの初心者には、こういった敷居の低いサービスがぴったり。何より、顔を見せなくていいのがよかったのです。
「顔を見せる」ことの力
オンラインカウンセリングやアプリでは、案内してくれた担当の方に対して「何か買わないと悪いかな……」と感じることがありません。これは、お互いの顔を見ていないからだと思います。対面していたら、語りかけに応答する責任があるように感じたでしょう。「リップスティックくらい買っておくか……」みたいな感じで。「顔を見せる」ことには、人を動かす力があります。買わせる力、注目させる力、話を聞かせる力……。
コロナ禍のさなかでも、会食や対面にこだわる人がいますよね。それは、「顔を見せる」ことが、人を動かす力=権力の源泉だからです。「誰々に『顔』がきく」「誰々に会って話した」ことで、いかに多くのことが動いているでしょうか。もちろん情報セキュリティの問題もありますが、一般企業の営業活動も同様です。たとえば、こまめに顔を見せることで、メールだけするよりも多くの受注ができます。
精神科医の斎藤環さんは「人と人は出会うべきなのか」と題した文章の中で、「他人と会うことはいつでも圧力であり、侵入であり、つまりは暴力である」と指摘しています。
私は人見知りなので、このことがとてもよく分かります。人と会うには、何らかの働きかけを受ける覚悟が必要です。それは優しさかもしれないし、悪意かもしれない。極端な話、いきなり殴られる可能性だってあります。そして、それはお互い様なのです。
メイクは、「顔を見せる」ことの力を運用する技術です。その技術を使えば、自分から相手に働きかけることもできるし、相手の働きかけから身を守ることもできる。コロナ禍で人と会うことの意味が問い直されている今こそ、「顔の知」としてのメイクが必要とされているのではないでしょうか。
撮影・文/鎌塚亮
Edited by 大森 葉子
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