井手上 漠(いでがみ ばく)
2003年生まれ。第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて DD セルフプロデュース賞を受賞。
2019年1月に放送された「行列のできる法律相談所」への出演以降、サカナクションのミュージックビデオ「モス」、「KANEBO」はじめ、「デジタルハリウッド大学」CM等、数多くのメディアに出演。
同年10月第36回ベストジーニスト2019「次世代部門」受賞。2017年中学3年生の時に島根県代表として出場した「第39回少年の主張全国大会~わたしの主張2017~」では、最優秀賞に次ぐ第2位である文部科学大臣賞を受賞。
常に自然体で自分らしくを標榜し、容姿のみならずそのアイデンティティにも多くの支持を集めている。Instagram(@baaaakuuuu)、Twitter(@i_baku2020)。
第2回
家族でも友達でも最初からすべてを受け入れられるわけじゃないです。
自分を偽って生きることをやめた井手上さんは、毎日が心地いいしすごく楽しいと笑顔で話してくれました。
だけど、最初から今のような状況だったわけではなかったと。
家族でも、友達でも、いきなりすべてを理解して、受け入れるというのは難しい。明るく、美しく、キラキラして見える井手上さんにも、そんな葛藤の日々がありました。
「私のすべてをすぐに受け入れてもらえなくても、それを悲しいとは思いません。結果的には時間がかかっても受け入れてもらえたし、そもそも考え方や受け止め方は人それぞれ。私が私らしく生きていくことと、私の物差しにみんなを無理やり合わせて考えてと強要するのは違うことだと思うから。
母は最初から『漠は漠だから』と応援してくれたけど、2つ上の姉は私のことを最初からすべて理解できたわけではなかったと思います。私は全く気づいてなかったのですが、私が『ジェンダーレス』であることをカミングアウトした当時、それを伝え聞いた姉の友達から『漠ちゃんってそっち系なの?』と言われたり、血が繋がっているからこそ複雑な気持ちになってストレスを感じることが多かったそうなんです。姉は私を責めたりはしなかったけど、多少ギクシャクしたこともありました。
だけど、母が姉の相談にのってくれたこともあり、私の活動を見るうちに、だんだんと理解してくれるようになりました。今では大の仲良しで、コスメや洋服を共有したり、おしゃれの情報交換をしたり。私よりずっと顔が小さくて、美人で、優しい自慢の姉なんです。仲良くできてすごく幸せ」
友達に関しても最初から、皆が「ジェンダーレス」の井手上さんを受け入れられたわけではなかったという。
「小学校高学年〜中学時代は、周囲から『キモい』とか言われることがあって悲しかった。だけど高校では、理解してくれる友達がたくさんできました。昔は女友達ばかりでしたが、今では男女問わずみんなと仲良し。親友もできて、お休みの日はカフェとかでずっとおしゃべりしてます。その子も芸能界に入るのが夢で、高校を卒業したらオーディションを受けると言っているので、いつか一緒にお仕事をできたら最高ですね。
こんな風に、自分を取り巻く環境は、良くも悪くも変わっていきます。どんなにどん底な状況だと思っていても、自分がイキイキと輝こうとするのをやめなければ、次第に周囲は受け入れてくれるんだなって、高校生になってより実感できるようになりましたね。高校生活では、制服に関する変化もありました。中学までは指定の学ラン。でも2020年から男性用、女性用、どちらでも好きな方の制服を選べるようになったんです。つまり、女子だからって必ずしもスカートじゃなくていいし、男子だからってズボンを履かなきゃいけないことでもない。ちなみに私が選んだのは、女性用。今の私には、その方が心地よかったからです。男性用を選んだ女子もすっごく多く、男女という“性”だけで人を分類するのは、ナンセンスなことなのだと実感しました。
実はこの制服改革、私と友人の二人で1年生の頃から学校に働きかけて実現させたことなんです。その友人は女性の体で生まれてきたけど、心は男性で。制服でスカートを強要されることが苦痛だったんです。最初こそ、“前例がない”と先生たちになかなか聞きいれてもらうことができなかったけど、男の先生に『もし先生が明日からスカート履いて働けと言われたらどうですか?』と伝えたことで、やっと私たちの気持ちを理解してくれました。本当は、男性用と女性用の2パターンじゃなく、柄違いとか色違いとかもっとバリエを増やして自由に組み合わせられたらいいのにな。やっと自分らしくいられる制服を着て学校に行ける様になったのに、もうすぐ卒業。今、めちゃくちゃ寂しいです。現役高校生のうちに、友達と写真をいっぱい撮って、思い出をたくさんつくっておきたいと思っています」
今の私があるのは母のおかげ
カッコよくてブレない母を心から尊敬しています
「中学3年生でのカミングアウト(※第1回参照)する際、背中を押してくれたのは母でした。シングルマザーなので大変なこともたくさんあるとは思うのですが、いつも前向きで、絶対にブレないカッコいい母です。母、姉、私。三人で仲良く暮らしています。子育てに関しては、けっこう厳しめ(笑)。例えば、私が友達と喧嘩してしまった時は必ず、『漠が悪いよ』って言われるんです。『漠のこういうところは良くない。だから謝っておいで』とも。言われてすぐは『なんで味方してくれないの?』って思うけど、母の言葉を反芻することで、喧嘩でカッとなって自分のことを棚に上げ、相手の悪いところばかりを見ていたことに気づけるんです。
実は、カミングアウトする前も、悩んでいたら叱られました。『お前が弱いから、周りがどうこうって気にして生きているから、どんどん自信がなくなるんだよ。自信がなくて弱い人を見ると、傷つけたくなる人はどこにでもいるもの。だから自分が変わらない限り、周りからバカにされ続けるしかないんだよ』と。そう怒られたことで気持ちが変わり、怖いものなど何もない、今の私になれました。昔は自分のことを喋れずにいつも聞き役になるくらい内気だったけど、最近はなんだかどんどん母に似て、強くなれているのを感じています」
衣装、アクセサリー/スタイリスト私物
恋愛に対する理想が高くなりすぎたのが最近の悩みなんです
ジェンダーに関することを語る姿は、凛としていて揺るがず、まるで大人のよう。だけど恋愛の話となると急に、17歳らしい表情になるところも魅力的。
「恋愛映画、ドラマ、漫画がめちゃくちゃ好きなんです。休日になるとどっぷりそれに浸ってキュンキュンしているのですが、その世界にハマりすぎるとなかなか現実に戻ってこれないのが悩みどころ。だってドラマに出てくるような素敵な人、普通はいないじゃないですか。でも映画やドラマ、漫画の世界に没頭しているとついつい、“いや、もしかしたらいるかも……?”なんて、考えちゃう。最近夢中になったのは、ドラマ“中学聖日記”。今回の撮影の前日にちょうど見終わったのですが、感動のあまりもう大号泣。朝、目がパンパンに腫れてて焦りました。昔から、“叶わない恋”をテーマにしたものに弱いんですよね。韓国ドラマも好きで、中でも“太陽の末裔”が本当に好き! あれも号泣系です。
好きなタイプは、芯のある人。私が惹かれるのって毎回そういう人なので、私ってそういう人が好きなんだって最近気づきました。外見的には塩顔派。“中学聖日記”の岡田健史さんが本当にカッコよくて、今一番理想に近いかも。いつかドラマのような大恋愛をしてみたいですね。でも、あんな辛い思いをするのはちょっと怖いな」
第三回は、井手上さんの美しさの秘訣や今注目しているメイク、そして将来の夢について、お届けします!
撮影/中村和孝(人物/まきうらオフィス) ヘアメイク/河北裕介 スタイリング/杉本学子(WHITNEY) モデル/井手上漠 取材・文/中川知春 構成/河津美咲
Edited by 河津 美咲
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