昨年、デビュー40周年を迎えた安達祐実さん。恐ろしいほど変わらない美しさで有名だが、このたび、意外にも初めてという本格恋愛ドラマでの主演に挑戦している。そのタイトルはFODオリジナルドラマ『愛してるって、言いたい』。人気漫画家・今村リリィさんの原作で、年齢を重ねるにつれどんどん恋に不器用になっていく女性心理を生々しく描いている。
生き方が多様化してきた昨今。結婚するも良し、しないも良し、と選択肢が広がってきたことで、逆に何を選んでいいのか分からなくなっている女性も増えている。さらに年齢を重ねたことで、プライドや傷つくことへの恐怖心から、自分の“欲望”に素直になれなくなっている人も多いのではないだろうか。今回は「令和の恋愛考」シリーズ特別編として、女性たちが直面する“多様な時代の恋愛の難しさ”について、安達さんと一緒に考えてみた。
私は「愛してる」って全然言えます(笑)
安達祐実さん演じる上田樹は、39歳の薬剤師。仕事は充実していて、マンションを購入するなど自立もしている。医師の沢田(吉沢悠)という恋人もいるが、その沢田は樹と長く付き合っていながら他の女性と婚約した、というショックな事情を抱えている。それでも嫌われたくなくて、自分の鬱屈した思い、寂しい本音などを沢田にぶつけられない樹……。
このように、一見自立していて強く見えるものの、鎧をまとい過ぎて自分の気持ちを素直に表現できなくなっている女性は少なくないはず。その代表格とも言える樹を演じていて、安達さんがもっとも共感したところはどこだったのだろう?
「年齢を重ねると、樹みたいに自分の気持ちを素直に言うということが、だんだんできなくなっていくのかなと感じていて。変に物分かりがよくなって、『相手の負担にならないように』とか、そういうことも考えてしまうんだろうし。だけど自分の中にはちゃんと願望、欲望がある。それを相手と通わせ合うことができないから、自分にだけのしかかってきて苦しくなる。若い頃とは違う感覚ですよね。私も、『いい年齢なんだから大人にならなくちゃ』というような言い聞かせをしてしまうところはあるので、そこはすごく共感できると思いました」
一方で、樹にあまり共感できなかったところもあるという。
「このドラマのタイトルは『愛してるって、言いたい』なんですけど、実は私は『愛してる』って全然言える人なんです(笑)。基本的に、思ったことは言葉にできるタイプ。ネガティブなことはあまり言わないですけど、人を褒めることもどんどんします。だから樹にも、そんなに『愛してる』と思っているんだったら言えばいいのにな、と思いましたね。何でそこまで言葉にしないんだろうって、むしろ不思議な感じがしていました」
生き方は一つに決めなくてもいいと思う
沢田は長く樹と付き合っていながら他の女性と婚約してしまうというあり得ない男性だが、それでも沢田にその行動を取らせてしまった要因を強いて樹に探すとしたら、安達さんの言う「言えばいいのに」にあるのかもしれない。
「やっぱり結局のところはお互いに本当に心を通わせることができていなかったのかなと思います。樹は思っていることを言ってないし、沢田も絶対に説明不足だし。お互いが何を考えているのか分からない、という関係のまま長くきてしまったことが一番の要因かなあと思いますね。たしかに気持ちをぶつけ合うと、それで終わってしまう可能性もあります。それが怖くて言えなかったんだと思うんですけど、逆に言えば、それぐらいの覚悟を持ってぶつかり合うということをしていれば、二人の関係もまた違ったものになっていたんじゃないかなって思いますね」
しかし、生き方の選択肢が増えてきている昨今は、恋愛に生きてもいいし、仕事に生きてもいい。はたまた結婚してもしなくてもいい。多大なエネルギーを使ってぶつかり合わなくても、また違う別の生き方を選べてしまうだけに難しいところだ。安達さん自身は、このような現代女性たちが直面する“のめり込みにくさ”を、どう感じているのか伺ってみた。
「私自身は“仕事をする人生”も選べているし、結婚も出産も離婚も一通り経験しています。だからすごく思うのは、『一つに決めなくてもいいのかな』ということですね。この生き方を選んだらあとは何も選べない、ということはなくて、本当はその局面によっていろんなチョイスができるはず。やっぱり自分の人生だから、自分のために選択して自分の幸せを生きる、っていうことが一番大事なんじゃないかと思います。
だけどみんなすごくマジメに、『世の中的にこうだからこうじゃなきゃいけない』とか、『こう決めたんだからこう生きなきゃいけない』とか、捉われているところもある気がします。まだまだ『結婚して……』というのが一般的な生き方だと思っている方もいると思うんですけど、別にそうじゃなくてもいいはず。ただ自分が幸せに生きる、ということにフォーカスして、いろんなことを選んでいけたらいいのになって思います」
愛情を確かめようとしなくても感じていられる、という恋愛がいい
安達さん自身は、もし時間を戻せるとしたら、どんな恋愛の仕方を選択してみたいと思うのだろう?
「まず、もっと楽しめば良かったなとは思います。私は子供の頃から今のお仕事をしていて、環境が特殊だったので、自由に恋愛をすることが難しかったんですね。だけど今考えれば、私の人生なんだし、それは人にどうこう言われるものではないので、戻れるならもう少し自分の気持ちに忠実に生きるかな……。
あと、若い頃って愛情を確かめようとする傾向が強い気がするんですけど、確かめようとしなくても感じていられる、という恋愛を追求したいと思いますね。まあそれは、年齢を重ねて、ドキドキすることよりも穏やかでいられるのが一番、みたいな気持ちが強くなってきたからだとは思いますけど」
「様々な経験を重ねたことで、“自分のための幸せ”が何か少しずつ分かってきた」と言う。そんな安達さんに、どんどん恋に慎重になったり、あるいはプライドが邪魔して素直になれなくなったりしている女性たちに向けて、メッセージをお願いした。
「私には高校2年になる娘がいるんですけど、見ていると、何事もすごく考え過ぎているなって思うんです。もっと本能的に動く瞬間があっていいのに、傷つくことを恐れ過ぎている気がします。でも、傷つくことも踏まえて進む、ということもしないと、本当に前に進めなくなる気がするんですよね。さらに、その傷すらも背負う、という覚悟があったら逆にもっと自由になれるのに……、というのは若い世代を見ていてすごく思うことです。
最近とくに思うのは、傷って時間が癒やしてくれると言いますけど、本当にそうだなということ。もちろん癒えない傷というのもあると思いますけど、でも、時間は味方になってくれる。だからあまり怖がらず、行動してほしい。せっかく人間は言葉というものを持っているんだから、あるなら使ったらいいのになって思いますね」
安達祐実
1981年9月14日生まれ。東京都出身。2歳から芸能活動を始める。94年にドラマ『家なき子』で主演を務め、12歳とは思えない名演ぶりで一躍その名を知られる。その後も高い演技力で、数えきれないほどの作品に出演。5月に主演映画『三日月とネコ』が公開予定。美容への関心が高いことでも知られており、自身のコスメブランド「Upt」を立ち上げている。
FODオリジナルドラマ『愛してるって、言いたい』(全10話)
上田樹(安達祐実)は薬剤師として働く39歳、独身。仕事は充実しているが、長年付き合っている医師の沢田真和(吉沢悠)は他の女性と婚約。そのモヤモヤをぶつけることも、沢田を責めることもできず、苦しい日々を送っていた。そんなある日、飲み会の帰りに年下男性の松重瑛斗(櫻井海音)と知り合う。瑛斗にマンションの1室を間借りさせてほしいと頼まれ、現状を変えたいという思いから同居生活を始めることに。さらに取引先のMRである佐藤航平(小池徹平)と出会い、真っすぐな愛と優しさで安心感を与えられ……。本当の意味での自分の幸せや、誰かに愛されることの大切さに気付き、樹の中で何かが変わり始めていく……。原作は今村リリィの同タイトル漫画。3月15日(金)よりFODにて順次配信中。
PROFILE
書き手
山本奈緒子 Naoko Yamamoto
放送局勤務を経て、フリーライターに。「VOCE」をはじめ、「ViVi」や「with」といった女性誌、週刊誌やWEBマガジンで、タレントインタビュー記事を手がける。また女性の生き方や様々な流行事象を分析した署名記事は、多くの共感を集める。
撮影/楠本隆貴 取材・文/山本奈緒子
Edited by 渕 祐貴
公開日: