令和の恋愛考

【新大河ドラマ『光る君へ』】が待ちきれない!吉高由里子はいかにして国民的女優へ上り詰めたのか

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吉高由里子は決して技巧派タイプの俳優ではない

ではその後半に強い理由は何なのか? それが先に述べた“奇跡のバランス”だと思うのだ。吉高由里子というのは、演技が決して派手なわけではないのに、どんなキャラクターを演じても見る人を飽きさせない不思議な女優だ。それどころか、むしろジワジワと彼女の魅力に惹き込まれていく。気付けば彼女が自分の身近にいる親しい存在のように感じられ始め、結果、激しく共感したり励まし励まされたりしながら作品を見るようになる。

物語が進めば進むほど支持を高めていくのは、彼女のそんな特性が一因しているのではないだろうか。そう、吉高由里子の最大の特徴というのは、絶対的な“女優”で普通の人では決してないのに、普通の人のような素朴さを兼ね備えている点だと思うのだ。だから私たちは、あくまでドラマであるという非現実性を楽しませてもらいながら、同時に共感性を持って作品に魅入らせてもらえるのだと思う。

これまでエンタメ系ライターとして私は数えきれないほどのドラマや映画を見てきたが、その中で、いわゆる“演技が上手い役者”には2つのパターンがあると感じるようになった。1つは、先天的な技巧センスを持っている役者たち。発声やリズム感、間の取り方といったプロとしての演技技術を完璧に身に付けており、彼・彼女たちがいることで驚くほど物語が引き締まる、そんな存在だ。とくに名脇役と言われる人たちを見ていると、この能力の高さに唸らされることが多い。

しかし吉高由里子というのは、実はこの技巧派タイプの俳優ではない。彼女の演技力の高さはもちろん誰の異論もないところだと思うが、上手さの質がまた違うのだ。ではどういう上手さかというと、それこそがもう1つのタイプである、“憑依型”だ。役と一体化し、そのキャラクターそのものになって画面の中で泣き笑い、躍動する。だから観る者は現実感と非現実感のはざまで、主人公に思いっきり共感し物語自体を楽しむことができるのだ。

『NHK2024年大河ドラマ 光る君へ THE BOOK(1)(TVガイドMOOK)』書影

強さ、はかなさ、小狡さ、明るさ、闇……

しかしあくまで私が見る限りだが、この憑依型の天才俳優はほとんどいない。なぜなら毎回役と一体化できるということは、つまり本人自身が素で様々な“顔”をあわせ持っている、ということが絶対条件になってくるからだ。たしかに人間は多面性を持つ生き物だと言われるが、相反する側面を複数、心を壊すことなく絶妙なバランスで保てる人は現実には少ないはずだ。こと、それが人に見られることを仕事とする俳優となったら、もはや奇跡に近い確率だろう。そしてその奇跡の存在が、また言わせてもらうが、吉高由里子だと思うのだ。

彼女は、あらゆる種類の人間性を共存させ続けている稀有な人だ。吉高由里子を見ていると、独立独歩で生きたいという強い自立心を感じると同時に、壊れそうなはかなさを感じるときもあれば、ほんのり人に依存しようとする可愛い小狡さのような一面を垣間見るときもある。基本的には酒好きでいつもカラカラ笑っている“陽”な印象を受けるが、決してそれだけではなく、人知れず落ちるところまで落ちて思い悩んでいる時期もあるのだろうな、と伺わせる。

他にも、「いーじゃん! いーじゃん!」と細かいことは気にせずあっけらかんとしているようで、実はすごく人の顔色を見ていて、一生懸命気をつかってお茶らけて場を盛り上げようとしているんじゃないかな、というようなことも思ったり……。とにかく全ての人間性が奇跡の配分でバランスを取って存在している、それが吉高由里子という人間ではないかと感じるのだ。

“危うさ”という最強の魅力

しかも彼女の魅力は、ただ多面であることだけでは終わっていない。その多面さからくる“危うさ”にまでつながっていることこそが、彼女が国民的女優へと昇華していった最大の理由だと私は確信しているのだ。

相反する一面を自分の中に多数共存させるということは、そのどれかの配分がうっかり増えてしまった場合、一気に心を崩してしまうという危うさを併せ持つことになると思う。実際、吉高由里子は、過去のインタビューでも「ずっと、壁」という発言をしていたが、常にその崩れそうなギリギリのバランスを保つことと戦っている気がする。

どこまでも落ちていってしまいそうな自分を必死に引き戻し、鼓舞し、時には鉛のように重い足を持ち上げて前に一歩踏み出す。天才でありながら、同時にそんな死にもの狂いの頑張りと葛藤を日々続けて今日まで来ている、そういう印象を受けるのだ。そしてこの生き様こそが、圧倒的な親近感がありながらもどこかミステリアスという、彼女の最強で唯一無二の魅力を生み出していると思うのだ。

『光る君へ』で吉高由里子が演じるまひろは、文学の才能を持ち、その才能を生かして権謀術数渦巻く平安中期の世を、女手一つで娘を育てながら生き抜いていくという強い女性だ。同時に、庇護者となる藤原道長と、おそらくお互いに尊敬という感情を併せ持った恋心を通わせていくと思われる。

強さ、秘めた情熱、そして揺れ動く想い──。様々な感情の機微の表現が求められる難しい役どころだが、奇跡の憑依型女優・吉高由里子なら、きっと彼女にしか生み出せない魅力ある紫式部を見せてくれることだろう。私たちはただ、素直にそれを受け止め、時に自分を重ね合わせて笑ったり泣いたりしながら、物語を楽しめばいいだけだ。

早くドラマが始まってほしい。楽しみで待ちきれないのと同時に、必ずや「だから吉高由里子って最高なんだよね!」となるであろうこの大河が終わることが、今から怖くて仕方ないのも本音だ……。

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PROFILE

書き手

山本奈緒子 Naoko Yamamoto

放送局勤務を経て、フリーライターに。「VOCE」をはじめ、「ViVi」や「with」といった女性誌、週刊誌やWEBマガジンで、タレントインタビュー記事を手がける。また女性の生き方や様々な流行事象を分析した署名記事は、多くの共感を集める。

Edited by 渕 祐貴

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