連載 齋藤薫の美容自身stage2

あなたの中にも、実は住んでいる。意地悪の魔物、その扱い方

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あなたの中にも、実は住んでいる。意地悪の魔物、その扱い方

人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。今月のテーマは「あなたの中にも、実は住んでいる。意地悪の魔物、その扱い方」。

最低、意地悪でなければ人間は何とかなる

人の心の中には魔物が住んでいる。誰の心の中にも住んでいる……よく言われることだけれど、その魔物の実態、考えたことがあるだろうか。住んではいても基本的には眠っていて、何かの拍子に目を覚まして悪さをする。でもずっと起きない場合もあるし、自ら起こさないよう努力している人もいるはずなのだ。

いずれにせよ、どんな善人も100%善の心で埋まっているわけではない、強い理性や道徳心で、魔物が目を覚まさないよう、動き出さないよう抑えているだけ。

そこで自分の中に潜む魔物の種類も正しく知っておこう。嫉妬の魔物、激昂の魔物、そして意地悪の魔物……。そもそも魔が差すと言うように、想定外のことが自分の中で起きてしまうからこその魔物。つまり本来の性格とはまったく異なる人格が現れ、自分のあずかり知らないもう一人の自分が顔を出す。ただ魔物にも自分を悩ませる魔物と、相手を困らせる魔物の2種類がいて、よりヤバいのは相手を困らせる後者の魔物。

たとえば前者の嫉妬の魔物などは、自分自身を深く苦悩させ、相手よりも自分が壊れていくし、激昂しやすい人もただ周りを驚かせ、結果として自分自身にダメージを与えるだけ。一方、後者の意地悪の魔物はひたすら相手を傷つけ、基本的に自分自身にはダメージが及ばないタイプの魔物。もちろん複数、またはすべての魔物を持っている危険な人もいる。どれも目覚めさせてはいけないが、意地悪だけは覚醒させたくないわけだ。

よくこんな言い方をする。「最低、意地悪でなければ何とかなる」。もう一つ「最低、ズルくなければ何とかなる」という言い方もあるが、どちらも“それさえ避けられれば、人間としてバツではない”というレベルの邪心であり、人が持つ毒気として一番問題ということを示している。意地悪は最悪の魔物という意味なのだ。

しかも意地悪は伝染する。つまり他人の強烈な魔物に、自分の魔物を呼び起こされてしまう。コミュニティの中にたった一人の意地悪分子が入るだけで、あっという間に意地悪集団が出来上がる。悪口が触媒となって広がっていく集団感染。多数派だけに自分が意地悪になっていることにさえ気づかない人もいる。

ちなみに人に意地悪した記憶が消えない人は、きっとそれを克服できる。小学校1年生の時の小さな意地悪さえ覚えている人は、後ろめたさの蓄積度があるから回避できるのだ。逆にそういう自覚がない人ほど、たくさん人をイジメている。基本、相手が悪いというのが魔物のスタンスだからだ。

実はズルさもまた不意に現れる。イジメには決して加担しない人でも、巻き込まれるのを恐れて見て見ぬふりをしてしまうのは一つのズルさ。本来ズルくない人にも、こういう時に一瞬ズルさの魔物は現れるのだ。いろんな人を魔物にしてしまうイジメの構造は、だから社会でもっとも憎むべきものなのである。

宝塚のように、大人のイジメ問題が表沙汰になるたびに思う。本来が加担しなくてもよかった人が、魔物たちの仕業でいつの間にかそこに誘い込まれてしまうケースも少なくないのだろうと。それは誰もがハマる可能性のある、大きな落とし穴。決してハマってはいけないワナ。大人として意地悪のレッテルを貼られることほど、恥ずかしく情けなくおぞましいことはなく、社会的に取り返しがつかなくなることも。そうならないように必死で自分を守りたい。

最低、意地悪でなければ、ズルくなければ、人として何とかなる……その意味がわかったはず。時々は、鏡の中の自分をチェックしてみたい。意地悪の魔物がうっかり顔を出していないかを。

意地悪な魔物は、顔に出ている?

そう、早く気づいておくべきなのも、意地悪な魔物はどこかしら気配や顔に現れるから。眉間のあたりに、眼差しに、口元に、あるいは声に……個人差はあっても、何となく含みがあったり歪みがあったり、何やら自然でないものを感じさせる。またそれが誰かをイジメている顔の表情を一瞬でも想像させてしまう。いわばその人から醸し出される気配そのものに、意地悪の因子が見えてしまうからこそ、絶対に眠らせておくべきなのだ。永遠に。

たとえば、新しい職場での顔合わせ、これから同僚となる人たちの顔を見まわした時、何だか苦手な人を瞬間的に見つけてしまったりすることがあるけれど、それって結構当たっていたりする。次の瞬間、にっこり笑いかけられればそういう懸念も吹き飛ぶものの、何かあった時に、あ、と最初に感じた違和感を思い出すケースが少なくないのだ。つまり魔物はどこかで顔を覗かせているのだ。

これは恋愛対象でも言えることで、会った瞬間ヤバい奴と思うのに、次の瞬間には異性として惹かれてしまい、その懸念をすっかり忘れてしまい、やはり何かあった時に、あの時感じた不安が的中した、と思うはずで、それも魔物の仕業。

ただ厄介なことに、そういう毒は時として魅力的に映ることも少なくない。壮絶なイジメを描いた韓国ドラマの問題作、『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』で大ブレイクしたのが、イム・ジヨン。イジメの主犯格を演じた女優である。一般的には不当に嫌われ憎まれる運命にあるのに、この人には逆のベクトルが働いた。一体なぜ? 実はこうした毒にも、人の魅力の不思議が潜んでいるからだ。

恋愛モノでさえ悪役が明解すぎる韓国ドラマでは、敵役が主役を喰ってしまうこともしばしば。憎まれながらも魅惑的でなければいけないから、『夫婦の世界』で夫の浮気相手を妖艶にもふてぶてしく演じたハン・ソヒや、元祖敵役、キム・テヒなど、非の打ち所がない美人が悪役になるケースも多々。

いや彼女たちが善良な主役を演じると、何だか物語がつまらなくなるから、それでいいのだ。彼女たちの共通点は、目は大きいのに、つり目であることと、ちょっと歪んだぽってり唇。ただあっけらかんとしたパッチリ目と可愛いだけのぽってり唇ではないところが重要で、それこそまさに魔物の住処という印象。同時に、それが一瞬で人の心を捉えて、危険を感じつつも離れられなくなる不思議な引力を持つ鍵なのだ。

また『ザ・グローリー』のような復讐劇では、かつてのイジメられ役が一転、イジメ役に転じる訳で、天下の美人女優ソン・ヘギョも大きなつり目と歪んだぽってり唇を持っていたことに気づかされる。人間はイジメられた仕返しをするために、意地悪の魔物を飼っているのかしらと思うほど。

ただし、ズルい魔物に魅力は宿らない。そういうセコい毒ではダメ。クレオパトラも楊貴妃も、美しさと毒気を両方持ち合わせたように、何物をも恐れぬ堂々たる毒こそが人を美しく見せるのだ。

結論を言うなら、毒を持っていても使わない、確信を持って使わない人がもっとも美しいという仕組みが決定的にあるということ。特に意地悪の魔物、これが住んでいるのに、またそれを自覚しているのに、確信を持って目覚めさせないようセーブしている、そういう人が誰も抗えない魅力を持つということなのだ。

韓国ドラマの敵役が意地悪の限りを尽くしても、やがて心を改めて毒が抜け、いい人になった時、一番美しい顔になるというようなこと。全員、毒は持っていて、でもそれをいかに封じ込めるかが人の魅力の生命線ではないかと言いいたいのだ。抗えない魅力というのは、“表には出てこない魔物”が作るものなのではないかと思うほどに。

生涯レベルでそれを眠らせ続けることができたら、人としてワンランク上に行けるというほど重要。だから魔物がいるのを自覚しておくべき。知った上でどう扱うかが大切なのだ。持っているだけで使わない毒が、あなたの知性と奥行きになるのだから。

毒を持っていても、確信を持って使わない人がもっとも美しい。特に意地悪の魔物が住んでいるのに、理性によって目覚めさせないようセーブしている人が、誰も抗えない魅力を放っている?

撮影/戸田嘉昭 スタイリング/細田宏美 構成/寺田奈巳

Edited by 加茂 日咲子

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