気になるニュースを友利先生がエキスパートに取材
医師
友利新先生
スキンケアとインナーケアを専門とし、最新皮膚科学から化粧品の処方まで精通。コスメの魅力や特徴を医学的視点から紐解いた解説が分かりやすいと支持を集め、多くのメディアで大活躍。
優れたコスメのベースにある基礎研究を重視する友利先生。最近では、国際的機関と連携して開発を進める化粧品も多いが、中でも友利先生が大注目するのが、ディオール サイエンスだ。世界屈指のメゾンであり、ファッションをはじめメイクやフレグランスのイメージが強い一方で、スキンケアにおいても50年以上の歴史があり、ディオールが着目したテーマに心血を注いだ研究者が、その後ノーベル賞を受賞することも。最近では“リバースエイジング”の実現へ向けて世界的権威が集結。大規模な研究が重ねられている。
今回、ディオールが開催したサイエンティフィック カンファレンスに友利先生が参加。京都大学iPS細胞研究所(以下CiRA〈サイラ〉)のクヌート・ウォルツェン氏、皮膚科医パトリシア・オジルヴィ氏との対談が実現!
【Report 1】iPS細胞を用いた幹細胞研究が進んでいくと、“肌の若返り”って、ありえますか?
美しい肌の根源である、幹細胞。さまざまな分野の研究から若返りを叶える条件が明らかに。
京都大学iPS細胞研究所 准教授
クヌート・ウォルツェン氏
ほ乳類幹細胞とゲノム編集において20年以上の研究歴を持ち、iPS細胞を用いた遺伝疾患への新技術開発にも取り組む。
友利先生
CiRA(サイラ)の研究が、皮膚の幹細胞へと及んでいることには、常に注目してきました。
クヌート氏
私たちは、ドナーの方の血液や皮膚から採取した細胞をリプログラミングして、どんな細胞にも分化できる人工多能性幹細胞(=iPS細胞)をつくり、再生医療をはじめ、さまざまな分野の研究をしています。皮膚に関する研究も行っており、iPS細胞を1ヵ月かけて表皮細胞に分化させ、その過程を見たり、表皮幹細胞と基底膜との接着や真皮との連携について研究を進めています。
友利先生
今回のカンファレンスでは、iPS細胞を作製する際の“DNAの脱メチル化”についての話がありましたが、興味深い内容でした。
クヌート氏
細胞が分化していく中で、その細胞に必要なタンパク質のみを合成するために不要な遺伝子の情報をオフにするDNAのメチル化が起き、細胞が分裂しても記録として継承されます。このDNAメチル化のレベルをはかることで、生物学的な年齢を特定することができますが、どんな細胞にもなれるiPS細胞を作製するときには、この記録は邪魔。DNAメチル化をリセットする必要があります。この“DNAの脱メチル化”により、ドナーの年齢をはじめとする、さまざまな記録は消去されて完全に初期化され、細胞の個性はなくなるのです。
友利先生
この“DNAの脱メチル化”のプロセスは、細胞が生まれたての状態に戻るようなものですよね? ということは若返りのヒントは得られるのでしょうか?
クヌート氏
はい、エイジングの過程を見るのと同じように、初期化の過程を見ていくことはとても重要だといえますね。
友利先生
幅広く見ることが、エイジングや若返りに関する新たな知見に繋がるんですね。
【Report 2】エイジング研究の新トレンド「表皮幹細胞とヒアルロン酸」について教えてください
研究の対象は真皮から、表皮と基底膜が主役へ。その理由、そして新たに解明された美肌の仕組みとは。
皮膚科医、スキンコンセプト ミュンヘン創設者
パトリシア・オジルヴィ氏
生化学、免疫学、臨床皮膚科、美容医学の分野で70以上の科学論文を執筆。美容が与える心理的影響の研究にも注力している。
友利先生
美容医療の施術においてトレンドは、真皮へのアプローチから表皮フォーカスへと変わってきているのをヒシヒシと感じています。
パトリシア氏
今まで時間をかけて皮膚の奥底にある真皮について学んできましたが、研究が進んだ今、皮膚の一番外側にある表皮の状態が肌全体の美しさに貢献することをもっと認識すべきだと思っています。そして、注目すべきは、その表皮に多く存在するヒアルロン酸。肌の厚みやハリの保持を担っていますが、30年でヒアルロン酸の合成は75%も低下と、加齢とともに、その量は著しく減少することがわかっています。
友利先生
今回の発表で面白いと思ったのが、表皮ヒアルロン酸の“漏れ”についてです。今までは、ヒアルロン酸の生成と分解のバランスが乱れることで減っていくと言われていたのに、表皮と真皮の境にある基底膜を通して真皮へ漏れ出ていたとは驚きました。
パトリシア氏
基底膜に有害分子であるプロテアーゼが侵入すると、基底膜に多くの穴が生じ、そこからヒアルロン酸が真皮へ漏れるということが明らかになっていましたが、今回表皮幹細胞が接している基底膜と接着する力が低下することで、よりプロテアーゼが侵入して基底膜に穴が開きやすくなることを新しい考えとして発表したのです。
友利先生
なるほど。この漏れ出しによって、表皮のヒアルロン酸の量が減り、表皮が薄くなって、ハリが低下し、シワができたり、みずみずしさがなくなってカサっと見えたりといった、さまざまなエイジングサインを引き起こしていたのですね。
パトリシア氏
そうなんです。ということは、表皮幹細胞と基底膜の接着力を高め、基底膜を強固にすることができれば、基底膜の穴を防ぐことができ、表皮からヒアルロン酸が漏れ出るのを防ぐこともできるのです。
【Report 3】今後、スキンケアコスメはどう進化していきますか?
エイジングは、遅らせる、止める、だけではなく、過ぎた時間を巻き戻すことも不可能じゃない。美容医療の補完をすることだってできる。つまり、ワクワクしかない未来が待っている。
パトリシア氏
6カ国の18〜80歳までの男女を対象にした私の研究では、日本女性の72%は「自分の年齢を受け入れている」という結果に。その一方で、願いが叶うなら「もっと若く見られたい」という人の割合は81%にも上りました。自分の見た目に満足できるかどうか?に直結しているのが、シワ、たるみ、毛穴などの肌状態であり、その解決策として需要が高まっているのがヒアルロン酸注入です。
友利先生
私もクリニックでは毎日のようにヒアルロン酸注入を行っていて、おでこやこめかみ、目の下など、顔立ちのイメージを変えたいという要望が多いです。でも、「架橋型」という分解されにくいヒアルロン酸を使っても、半年を目処になくなってしまうため、満足のいく仕上がりを保つためには、定期的に打ち続けていただく必要があるというのが現状です。
パトリシア氏
肌のフォルムを決めるメカニズムを理解すると、それも当然だなと思いますよね。
友利先生
はい。では、基底膜を強固にして、ヒアルロン酸が漏れ出るのを防ぐアプローチを取り入れられれば、今までよりも注入の効果を長持ちさせるというような美容医療に対する補完的な効果も期待できますか?
パトリシア氏
はい、そのように考えています。また、幹細胞と基底膜の接着が弱まり、表皮からヒアルロン酸が漏れ出すのは、誰にでも起こること。まだシワのない若い世代においてもヒアルロン酸が漏れ出している可能性は十分にあるため、先を見越して早くからの対策が必要です。
友利先生
ディオール サイエンスが長年行ってきた幹細胞研究からの基底膜への着眼と、ヒアルロン酸研究が見事に合致したのですね。
◆友利先生的まとめ
幹細胞研究から導き出される美肌の未来に、期待大です!
「美容医療でもトレンドの、ヒアルロン酸や基底膜。今回、幹細胞研究を継承していくことで解明された新事実には、私も正直とても驚きました。クリニックの施術の“いいとこどり”ができる、そんなセルフケアが、美容の新時代を拓くはずです」
撮影/nara(vale.) ヘアメイク/鈴木京子(友利さん) スタイリング/槇 佳菜絵(友利さん) 取材・文/楢﨑裕美
Edited by VOCE編集部
公開日: