連載 メンズメイク入門

ウェブ会議「きれいに映る人、下手な人」から考える大人の男の美しさ 【連載第10回】

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「男性もメイクは当たり前!」「男性も美容感度が高まっている!」。そんな雰囲気を感じはするけれど、本当に社会はそうなっているのでしょうか? 「メイクがしたい!」と思いたち、孤軍奮闘する著者がウェブ会議を通し、「実は、自分がいちばん自分の顔をよく知らない!?」という事実に気がつきます。

【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

ウェブ会議にアオリで映る人

コロナ禍の影響で、ウェブ会議に出席する機会が増えました。思い思いの仮想風景を背にした、バストアップの同僚や取引先との打ち合わせ。まるでテレビ番組のワイプのようなのに、人によって「映る」技術に圧倒的な差が出ることに気づきました。ウェブ会議では、リアルの場以上に、見られることのうまい人とヘタな人がパキッと分かれてしまうのです。

ウェブ会議では顔がアップになります。大きなモニタに映し出されることもある。なかなかの試練です。実際に会っているとき、人は案外おたがいの顔を見ていないものです。ところが、ウェブ会議ではそうはいきません。

そこでは、見た目に気を使っている人と使っていない人の差が、残酷なまでに現れることがあります。適度なメイクをして、ファッションや背景、照明やカメラの角度にも注意を払える人。一方、スキンケアの経験などあるはずもなく、散らかった部屋の中で、なぜか顎のほうからアオリで映っている人。

つまり、見た目についてのリテラシーにとてつもない差があるのです。私の経験上、映りのきれいな人は、性別や年齢を問わずいます。ところが、面白い角度でウェブ会議に映ってしまうのは、中年以上の男性に限られました。

ウェブ会議では、表面的な印象しか伝わりません。生身の人間だけが持つ温度感や、発した声のふるえやひびき、あいづちのタイミングに含まれた配慮は再現されない。そのかわりにあるのは、解像度の低い鏡像だけです。

おそらく、普段からメイクしていた人は、低解像度のウェブ会議ではメイクを薄くしているはずです。微妙なニュアンスや血色を表現したところで、パソコンやタブレットの貧弱なカメラ・アイはそれを拾ってはくれません。会議の間だけサッと下地やファンデーションを塗り、終わったら落とせばいい。不足があれば、画像補正機能で紗をかければ完璧です。

その一方、これまで威厳や勢いなどの存在感にものを言わせてきた人は、そのオーラをすっかり剥ぎ取られ、あらためて自分の顔をメディアとして意識せざるを得なくなってしまったのではないでしょうか。メンズメイクへの需要の高まりには、そんな流れも寄与していると思います。

私は自分の顔をよく知らない

見た目についてのリテラシー差はどこからきたのでしょうか。なぜ人は、自分のアゴを同僚に強調してしまうのか。

人は、自分の顔を実際よりもマシなものだと考えています。自分の持っている自己イメージとリアルな自分の顔には相当な誤差があることは、経験的にも明らかです。いわゆる「他撮り」の写真に写ったときに「俺、もうちょっとかっこいいと思うんだけどな……」と悲しい気持ちになったことがあるのは、私だけではないでしょう。本当は映っている顔が自分の顔なんですよね。

場所も重要です。たとえば、私は照明を点けた自宅の洗面所で身繕いをしています。洗面所の鏡に映っている姿が、基本的な自己イメージになっています。しかし、あらためて考えてみれば、私は屋外で日光に照らされている自分の顔がどの程度テカっているのか知りません。あるいは、真横から見たときの自分の頭がどんな形をしているのかも知らない。自分より背が低い人、高い人からはどんな風に見えているのか? そんな風に考え始めると、驚くべき事実に気がつきます。

私は、自分の顔をよく知らないのです。どんな風に人に見られているのか、まるっきり、データがなさすぎる……!

どんな角度から見ても「決まっている」人っていますよね。たとえばモデルや俳優をしている方。かれらは「他人の目から見た自分」のデータを膨大にストックしており、注文に従って自在にそれらを引き出す技術者です。かれらの脳内では、自己イメージと見られる自分の間に、ほとんど誤差がないに違いありません。

見た目についてのリテラシー差は、「見られている自分の顔」をよく知っている人と、全然知らない人の差なのでしょう。とくに自分は「見る側」「ジャッジする側」だと考えてきた人は、自分がどう見られているのか知らない。気にしたことがないし、その必要がなかったと思われます。

明らかに、そこには性別によって差があります。男社会において、男は見る側だという傲慢で無礼な考えがまかり通っていました。しかし、それは異性を人間扱いしていないに等しい。改めるべきです。

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