化粧品のリリースだって、チャットGPTが書けてしまう?
これは、ある化粧品会社のPRの方から聞いた本当の話……新製品のリリースを、チャットGPTに書かせてみたら、多少の手直しだけで、それなりになってしまう。本当に、使えてしまうと。
もはや説明するまでもなくそれは、人間のように自然な会話ができる高度なAI(人工知能)チャットサービス。文章の完成度や感情も入ったような人間味のある表現は驚くべきもの。しかも無料!
何だかゾッとした。もうそんなことになっちゃっているのかと。所詮は“絵に描いたモチ”的に、実際の現場では使えないのだろうとタカをくくっていたし、それだってもっとずっと先の話と思っていたから。
確かに最近ハリウッドでは、脚本家と俳優の組合がAIの台頭で仕事を奪われ、地位が低下し、使い捨ての「道具」として扱われることに抗議。過去に例のない大規模なストライキとなった。
最初はピンとこなかったけれど、要はこういうこと。脚本は要素がそろえばチャットGPTが書いてしまうし、俳優は1日雇って外見や仕草、動作、声などをAIスキャンすれば、その生成データで作ったレプリカをくり返しくり返し半永久的に使用できるというのだ。つまりもう、そのエキストラには永遠に仕事は来ないということ。
これまでもCG技術で、エキストラの人数を何十倍、何百倍に増やすようなことはやってきたわけだが、もう次元が違う。
しかもこれ、エキストラだけの問題ではない。生成AIは、名のある俳優を若返らせたり老けさせたり、何でもできてしまうので、じゃあその分のギャラはどうなるの?との問題も。すでに現場では、亡くなった俳優を製作中の映画に登場させたりするAI活用が始まっているのだとか。組合側は、自分たちの生活ばかりか、尊厳まで奪われると反発している。
また、チャットGPTによる脚本づくりも、短期間で製作者の意図通り出来上がってしまううえ、感情のこもった台詞に、カット割り、表情まで指示できるので、当然大幅なコストダウンになる。しかも失敗は避けられるから、主流となるのは時間の問題とか。でもなぜそこまで可能なの? 実は既存の作品を大量に学習し、その膨大なデータを組み合わせてまったく新しい作品を作り上げる、本当にすごいことになっているのだ。「歴史は間違った方に向かっている。今私たちが立ち上がらなければ、本当に人間が機械に取って代わられてしまう」と彼らはデモで訴えているのだが。
約10年後、AIの普及でなくなる仕事は49%……そんな試算もある。実際にAIに仕事を奪われる可能性のある職種が10以上挙げられている。
ホテルや交通、通信などまで業種は幅広いが、まず何といっても一般事務。銀行窓口や受付なども含め、ごく一般的な事務作業がことごとくAI化できてしまうというのだ。たとえば冒頭で挙げた、化粧品のリリースの文書制作なども、ここに含まれ、その職種の中には、ライターも含まれている。理論的にはグラフィックデザイナーなども、その危険性あり?
一から何かをつくるクリエイティブな仕事は一応セーフと言われながらも、脚本家が脅かされているように、実は音楽の世界でも過去のヒット曲など、いろんな要素を生成AI化すると、ヒット間違いなしのまったく新しい曲が出来上がってしまうらしい。ああ、コワイ。コワすぎる。
じゃあ逆に“要る職業”とは何かといえば、医療関係、保育・介護関係、コンサルタント、カウンセラー、ヘアメイク関係など、人間に直接触れたり、一人一人が持つ問題に対峙する仕事ということになる。これはなるほど、説得力あり。
前置きが長くなったが、ここで何を言いたいか。そうした背景から今後は人間、社会に必要か否か、「要る人か、要らない人か」二つに一つ、必ずそうした基準で見られることになるという話なのだ。
AIに仕事を奪われない人は誰か? AIよりも優れた人は誰か?
どんな職種もゼロにならずとも、数が減らされていく可能性は否めず、さっそく生き残る準備をしなければ! “要る人”とは誰か? どうすれば“要る人”になれるのか?
これまでだって、どんな会社にもいたはずだ。「あいつ要らない」と思わずつぶやきたくなるような、文句しか言わないオヤジや、まったくやる気のないKYな新入社員。要る人と要らない人は、すでに明快だった。でもこれからは、要らない人は本当に要らなくなる時代なのである。
いや実際に、風の時代になってからは、今まで隠されてきたことが明るみに出て、不要なものはどんどん排除されるようになっていく、と盛んに言われてきた。とても皮肉だけれど、旧ジャニーズ問題も然り。申し訳ないけれど、そういう冠が外されると、要る人と要らない人がはっきりしてしまう。AI以前にそういう時代なのだ。
とはいえ、とても単純に、才能があって、努力もしていて、人として魅力的……この3要素がそろっていれば、必ず生き残れるということは彼らを見ても明らか。それは実社会にもそっくりつながる話なのだ。ただ、完璧な仕事はAIがやってしまうわけで、そうなれば仕事の能力がいくら高くても安泰じゃない。
人間にあってAIにはないものといえば、当然のこととして心であり、感情であり、人格。そこで思い出したいのは、AIに奪われない職業……人間に直に触れ、人の悩みに向き合う人々だ。言い換えれば、【人を助ける仕事】ばかり。自ら何かを作り出す仕事じゃない。少なくとも、自分が主役になる仕事ではない。相手があって初めて成立し、その相手のために自分のスキルを使う仕事。従って、こうした仕事は本来が心のある人格者がつくべき仕事でもある。彼らが心のない人間だったら、関わる相手があまりに不幸。彼らを信じて、自分の命や人生や財産をあずけるわけで、医者なんて一番人格者であってほしいものだが、これからはあらゆる仕事でこうした人間性が問われるようになるのではないか? そう言いたいのだ。
もちろんAIも、人に対して優しくできる。思いやりのある言葉も言える。そもそもチャットGPTが話す言葉は、そんじょそこらの人間よりずっと立派。“優しい感じで”とセットすれば、くどいくらいに優しい言葉をかけてくれる。でもそれはそう設定されているからと考えると、ひどく虚しい。しかも私たち人間は、いかにもなロボットは好きでも、人間そっくりのロボットには嫌悪感を感じるらしい。さらに一線を超えて人間に酷似してくれば、再び好感を持てるらしいが。その辺り、注目のAI人間映画『ザ・クリエイター/創造者』も示唆している。まぁどちらにせよ、AIと心を交わすのは至難の業なのだ。
いやぶっちゃけ、人間同士が心を交わすのだって、相当に難しい。AIと話している方がよっぽど気持ちが楽なくらい、人間同士は面倒くさい。傷ついたり腹が立ったり失望したりの可能性だって、よっぽど多い。だからこそこれからは余計に、いやこれまでの比でないほど、本当の意味で心が通い合い、心が温かくなる人物を世の中は求めるのだろう。
つまり、“要る人”とは、他者のためにスキルを使える心ある人格者。そういう人に、人間の温もりを強く求めるようになるはずで、結局そういう人しか要らなくなる。これは間違いないのである。
だからこの際、仕事を見直してみてもいいかもしれない。AIに脅かされず、人のために自分の才能を使えて、心を交わせられ、相手を助けて感謝される仕事を。来たるAI時代に間に合えばいいのだから、10年計画で。さもなければ、あなたがいると職場があったかくなる……そう言われるくらい愛のある人格者に。どちらにせよ、“要る人”として生きる未来を始めよう。いや、今すぐ始めなければ。
撮影/戸田嘉昭 スタイリング/細田宏美 構成/寺田奈巳
Edited by 加茂 日咲子
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