連載 メンズメイク入門

「男ひとりコスメ探し」の失敗談を共有します【連載第9回】

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「男性もメイクは当たり前!」「男性も美容感度が高まっている!」。そんな雰囲気を感じはするけれど、本当に社会はそうなっているのでしょうか? 「メイクがしたい!」と思いたち、いろいろなアイテムに手を出し始め、美容初心者ならではの失敗をしつつ、あることに気がつきます。筆者の孤軍奮闘から見えてきたことは?

【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

クレンジングの存在から知らない

ゼロからスキンケアを始めて、半年程やってみた経験をまとめてみようと思います。知識も経験も不足したまま、体当たりで色んな失敗をしました。このまとめが、これからスキンケアを始める人の参考になれば本望です。

たとえば、私はしばらく「クレンジング」の存在を知りませんでした。メイクのほとんどは油性なので、洗顔料だけでは落ちません。だから、油分を含んだクレンジング料を馴染ませ、水分で乳化させて落とします。そして、クレンジングと洗顔料は別である。これを知らなかったのです。

メンズメイクのBBクリーム等はおおかた洗顔料で落ちるようになっていますが、クレンジングが必要なものもあります。『いちばんわかるスキンケアの教科書』などによれば、クレンジングは、メイクを落とす力が弱い方からクリーム、乳液、ゲル、オイル、ローション、シートの順。適切なものを選ばないと、肌に負担がかかります。やらないのは最悪なので、使っているアイテムが要クレンジングか否かも把握する必要があるのでした。

つぎの失敗は、最初からスキンケア用品をまとめ買いしたことでした。元々使っていた洗顔料やアフターシェーブローションもしまい込み、心機一転、スキンケアをスタートしたのです。

ところが、化粧品をすべて取り替えることで、それぞれのアイテムの効果が分からなくなってしまいました。ドラッグストアで気になったものをデタラメに買ってきたので、効果もバラバラ。本来、化粧品には役割と特徴があります。ニキビ対策に特化したもの、顔の皮脂量を落ち着かせるもの、保湿成分が追加されているもの。それぞれの効果が分からず、継続して使うかどうかの検討ができませんでした。

まるごと買い替えてしまうのは、初心者にありがちな失敗かもしれません。一新して、同じラインで揃えたくなりますよね。しかし、化粧品の効果が分かるまでには時間がかかります。肌はおよそ一ヶ月周期で生まれ変わってるため、たいていの場合、新たな化粧品を導入してもすぐには何も起きません。だから、ひとつずつ試していくべきだったのです。

スキンケアにも「ビフォーアフター」の衝撃を求めてしまうのですが、残念ながら、美容に一発逆転の革命はないようです。一夜にしてニキビが消え、肌がぷるぷるになったりはしない。というか、なったら怖いです。むしろ、試してみてトラブルが起きなければ、その化粧品は自分に合っていると考えた方がよさそうです。

肌荒れの原因は化粧水と洗顔料だった

スキンケアの目的のひとつはニキビをなくすことでしたが、ニキビ予防のアイテムを一生懸命使っているにもかかわらず、ニキビができる頻度は変わりませんでした。「スキンケアって、こんなものか」と思っていたある日、妻に「ニキビが消えないなら、アイテムをひとつずつ変えてみたら?」と言われました。私の肌に合っていないアイテムがあるのではないかというのです。自分の肌は強いと思っていたので、半信半疑で試してみました。

驚いたことに、美容成分が配合されていない、天然水の化粧水とワセリンだけで保湿したところ、すぐにニキビができなくなりました。肌荒れの原因は、やはりスキンケアアイテムのどれかだったのです。そこから、ひとつひとつアイテムを変えながら検証したところ、なんとニキビ予防の化粧水が自分に合っていなかったことが分かりました。

私は「顔がベタベタするのがイヤ」と思っていたので、洗顔料にこだわり過ぎたことも一因でした。皮脂がしっかり取れる強力な洗顔料を愛用。すごくスッキリして「ビフォーアフター」感があったのですが、使用後に肌がつっぱっていることに後から気付きました。皮脂は取り過ぎて、水分は不足していたのです。美容書などによれば、肌にとって大切なのは水分と皮脂のバランス。それに気づくまで、むしろ肌にダメージを与えていました。

スキンケアは足し算ではないのですね。肌の健康を保つことが目的なのに、スキンケアそのものが楽しくて、手段が目的になっていました。それはそれでいいと思いますが、ちょっとやりすぎだったようです。それからは、ゆっくりと肌の状態を確かめながらスキンケアすることを心がけるようになりました。

そのうちに、あるブランドのアイテムが自分の肌に合うことが分かりました。肌が荒れないだけではなく、朝起きたときの調子や、使い心地までを総合しての実感です。人によってそれは違う様子。私もそうやって「レギュラー」が決まってからは、随分スキンケアが楽になりました。このレギュラーは、季節や年齢に従って変動していくものと思われます。

口コミサイトで検索ができない

いまの化粧品はどれも安全で、使い心地もいいと思います。プチプライスといえども、人気のアイテムは独自の良さがある。しかし、高級な乳液を使ってみると、やはり効果は素晴らしいものでした。続けるほど肌の調子は良くなり、明るくなったことがはっきり分かる。高級品は、高級品であるだけの理由があるようです。

口コミやレビューは化粧品を選ぶときの強い味方ですが、じつはほとんどのサイトで、男性用化粧品を指定して検索することができません。検索条件も複雑で、ユーザーにある程度の知識があることが前提とされています。クレンジングを知らない人がサイトを使うなんて、想定していないかもしれませんね。自分の肌質が乾燥肌なのか混合肌なのか、どうやって調べればいいのか分からない。新製品がやたらいっぱい出ているけど、結局どれがいいの? 知識のない私は、検索条件自体を指定することができませんでした。

美容の知識に乏しかったのは、美容について人と話す機会がなかったからです。男性同士で、スキンケアについて話した記憶がまったくありません。私と同世代以上で、クレンジングの概念を理解している人がどれだけいるでしょうか? その一方、メイクをする人たちは、美容に関する情報を若いときから交換し続けていたのです。

スキンケアをすることは、新たな概念を獲得していくことでした。それは、違う国の言葉を学ぶことに似ています。クレンジング、美容液、フェイシャルオイル、数ヶ月前の私は、このいずれも知らなかった。いまは、小学生レベルくらいにはなっているといいのですが……。

美容室で相談しよう

しばらくして、YouTubeのメンズメイク動画などでも、ほとんどの人が同じことを言っていることが分かってきました。そこからは、自分の顔で試していくしかない。そんなとき、リアルに相談できる人がいたらどれだけ心強かったでしょう。それなのに、同僚や友人たちは、化粧水と乳液をしっかり使っている人の方が少ないありさまです。

解決策として見つけたのは、美容室で相談することでした。美容師の方は、仕事柄スキンケアに詳しいのです。なにより「男のくせに、スキンケアをしているの?」等と、まず言いません。散髪には決まった頻度で行きますから、相談もしやすい。サロン専売品も売っているので、予算があれば買ってみてもいい。これは今でも続けています。

私の場合、女性の知り合いが美容について教えてくれる幸運にも恵まれました。連載やインタビューを公にしているので、私がメンズメイクに興味があることをみなが知っているのです。面白いのは、それぞれが化粧品についての一家言を持っており「推しコスメ」を勧めてくれることです。これがとても楽しかった。

もしかすると、美容の話題については、男性が女性に対して偉そうに説明する「マンスプレイニング」のような現象が起きにくいのではないかと思いました。年季がまるで違うため、ほとんどの場合、美容については女性の方が詳しいことが自明だからです。たとえば私の反応も「そ、そうなの?!」みたいなものばかり(例:「えっ、コットンに種類があるんすか?!」)。

でも、行きつけの銭湯で、学生同士がスキンケアについて話している光景が見られるようにもなりました。彼らにとっては、風呂上がりに保湿することは当たり前の習慣で、友だちに見られても恥ずかしくないことなのです。いい意味でも悪い意味でも、この流れは止まらないでしょう。固形のフェイシャルオイル(バーム)をシェアする学生たちの隣で、私は「俺も学生の頃からスキンケアやってればなぁ」なんて考えていました。男性が美容について語ることが特別なことではなくなり、レビューサイトや店頭アイテムもより豊かになっていけば、男たちは驚くくらいきれいになってしまうかもしれませんね。

<左上から時計まわりに>
アベンヌ ウォーター 50g ¥700/ピエール ファーブル ジャポン
ファンケル マイルド クレンジング オイル 120ml ¥1700
DUO ザ クレンジングバーム ホワイト 90g ¥3600/プレミアアンチエイジング
ヴァセリン オリジナル ピュアスキンジェリー 80g オープン価格/ユニリーバ・ジャパン

Edited by 大森 葉子

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