今回教えてくれたのは…
岸見一郎先生
哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。ギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究している。ベストセラーとなった『嫌われる勇気』」(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)をはじめ、著書多数。近著『泣きたい日の人生相談』(講談社)は、生きることに不安を抱える現代人に寄り添う、心がフッと軽くなる言葉が詰まった名著!
◆読者のお悩み1:
「自分の容姿に自信がなく、自己肯定感を高く保つことができません」
A.岸見先生:
「この私しか生きられない」。そう覚悟を決めることで、キレイの可能性が広がり、人生は豊かになります
目の大きさ、顔の大きさ、背の高さなど、容姿は持って生まれたものですから、それを変えることはできません。でも、少し考えてみてください。誰もが見とれるような美しい人たちは、本当に心から幸せなのでしょうか? 今も昔も、“絶世の美女”と呼ばれるような人たちの苦悩や苦労の話はたくさんあります。
本当に大事なのは、「この私しか生きられない」と覚悟を決めること。「どうしてもっと美人に生まれてこなかったのだろう」と悔やむのではなく、今の自分の容姿を活かしてどう生きていくかが、これからの人生を幸福に生きられるか否かを決めるのです。
みんなから愛されている人、幸せなそうな人はたくさんいます。そういう人は、優しいとか、愛嬌があるとか、何か得意なものがあるとか、外から見える美しさとはまた別の観点の魅力を活かして生きています。まずは、自分が持っているそのような魅力に気づくことから始めましょう。それだけで、表情も雰囲気も大きく変わり、美しく見えるはずです。
◆読者のお悩み2:
「自分の顔が好きになれません。整形して理想の顔になれたらもっと幸せになれる気がして……」
A.岸見先生:
「整形をするもしないも自由だけど、考え方を変えなければ幸せにはなれません!」
整形そのものを悪いことだとは思いません。もっとキレイになりたいとは誰でも思うことです。しかし、現状の自分が好きになれず、その解決策として整形をしたとしても、「自分が美しくないから不幸なのだ」という考え方を変えない限り、今の悩みに立ち戻ってしまうことになります。美しくないから不幸なのではありません。
キレイでないからと人生の課題から逃げてはいけません。整形をするもしないもあなたの自由です。ただ、整形さえすれば、幸せになれるわけではありません。今自分がキレイだと思っている人も、誰もが必ず老いることを忘れてはいけません。
しかし、悲観することはありません。美に対する見方は年齢と共に変わっていきます。若い頃は美しいと思えなかった絵画や風景が歳を重ねると美しいと感じられることがあります。自分の美についても同じです。今は受け入れられなくても、いつか自分が美しく、愛おしく思えるようになるでしょう。
◆読者のお悩み3:
「どうしても人と比べてしまいます。嫉妬したり、引け目を感じてしまったり。人付き合いも苦手で、楽しそうな人のSNSを見るのも苦しいです。どう向き合えばいいのでしょうか?」
A.岸見先生:
「引き算の考えを捨てて自分の価値や魅力を足し算で考えることが大事」
人と比べても意味はありません。あの人みたいになりたい」と、メイクやファッションを真似して他人そっくりになってしまったら、自分が自分ではなくなってしまいます。今の社会は、引き算ばかりです。多くの人は80点を取っても「なんで100点取れなかったの?」と責められて育ってきました。そんな社会の価値観から自由になるには、ありのままの自分を受け入れることが必要です。
例えば、自分は人見知りで、暗いからダメだと思っているのは、「明るい方が良い」という価値観に囚われているから。しかし、明るい人だけが魅力的であるわけではありません。自分は暗いと思っている人は、自分の発言で相手が傷つかないように気遣える優しい人。「自分は暗い」と考えるのではなく、「自分は優しいのだ」と考えられるなら、自分を好きになれます。
また、SNSを見るのが苦しいのなら見なければいいのです。でも、見ないでおこうと決めるともっと見たくなるものですし、そう考えること自体、社会の価値観に囚われている証拠です。ありのままの自分を受け入れることができれば、SNSを見ても世の中にはいろいろな人がいることに気づくだけで、苦しむことはなくなるでしょう。
◆読者のお悩み4:
『「自己肯定感」とはそもそもどんなもの?』
A.岸見先生:
「ありもしない理想の自分を追い求めるのが自己肯定感。だけど、大事なのはありのままの自分を認める自己受容なのです」
私は、「自己肯定感」を持つことが大切だとは考えていません。自己肯定感とは、ありもしない理想の自分を求めることですから。誰にでも好かれたい、永遠に美しいといったとうてい達成不可能な理想を持ったら、その理想から引き算してしか自分を見られなくなります。必要なのは、今、ここにいるありのままの自分を受け入れる「自己受容」なのです。
自分でも自分が好きになれないのにどうして他の人が自分を好きになってくれるだろうと自分を受け入れない人は、傷つくことを恐れて他の人に心を閉ざしているのです。しかし、ありのままの自分を受け入れられたら、自分を好きになってくれる人は必ず現れます。
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「普通である勇気」をどうしたら持てる?
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