すべてのルールに意味があるのだと理解
VOCE編集部
では、実際に憂樹さんが合格されたときはきっとすごく嬉しかったですよね!
十和子さん
はい。実際には“合格”を願ってはいましたが、16歳の娘が実際に寮に入り、離れて暮らす……。この距離は想像以上に厳しかったです。憂樹たちは旧寮を経験した最後の学年だったんです。本科に上がったときに新しい寮が完成して引っ越ししたので。お手洗いもお風呂も共同という旧寮でしたが、大先輩、大スターの方々の足跡が寮の中の至るところにあって、それを目にすることが出来て、本当に良かったと思います。
VOCE編集部
実際にご家族と離れたときのお気持ちは?
憂樹さん
それまでは修学旅行の2泊3日くらいしか離れたことがなかったですし、恥ずかしながら自分で洗濯機を回したこともないような状態で……。ご飯も「レンジで何分温めればいいの?」という世界でしたから、音楽学校に入っての1年目は大変でしたが、宝塚がどういうものかを理解するうえで、とても大切な時間だったと思います。
VOCE編集部
特に若くして寮生活になる、というのも大変ですよね。規律も厳しいと聞いていますし。
憂樹さん
早い時期に親元を離れることがとてもよかったと思ったのは、実は退団前くらいだったのですが、本当にありがたかったなぁと気付きました。決して一人で生活できていたわけではないですが、やはり勉強になりました。
十和子さん
今は携帯もありますし、LINEもできますし、憂樹はわりとまめに連絡をくれていたので安心でしたが……。ただ、いきなり朝に「ジャージがない」という一言がLINEで送られてきたりするんです(笑) それを見て、私たち家族がオロオロしちゃう。「ジャージがないんだって、どうする?」って家族みんなで(笑) 憂樹は関西にいて、私たちは東京にいるからどうにもしようがないのに慌てちゃって。今となってはいい思い出です。
VOCE編集部
十和子さん自身が戸惑われたことはありますか?
十和子さん
娘からは「どうして?」と聞かないでくれと言われていました。どんなに理解が追い付かないことだとしても、それはもうルールだから、ルールに従うということなんです。一般的にも宝塚のルールに対してアレコレと取り沙汰されていますが、それは“劇団に入ったときに意味が分かる”んです。
VOCE編集部
そうなんですね! いくつか例を伺ってもいいですか?
十和子さん
例えば、よく「音楽学校では壁に伝って歩く」という話がありますが、あれが身についていることで舞台に立ったときに役に立つわけです。照明で明るい舞台上からパッと袖に入ったときに目が見えなくなりますよね。でも“何かに沿って歩くこと”が身についていれば、幕に沿って歩くことで絶対にぶつからないんです。
憂樹さん
敷居を絶対に踏まない、というのもそうです。もちろんお行儀というかお作法でもありますが、舞台に出たときにコードを踏まないというのを身につけるためでもあります。
十和子さん
だから、すべてのルールにちゃんとした意味があって、意味のないことはないんですよね。女性ばかり80~100人の生徒が集団生活を送り、ほぼ休みもない中で暮らしているのですから、ある程度の規律はやはり必要ですし、どれもが社会に出て必要なことなんです。それを体に染み込ませていくという仕組みなんだと、理解できました。
憂樹さん
ルールはルールなんです。「何で?」とか「どうして?」ではなく、そこに存在する事実がすべて、というのを16歳で学びました。でもすべてに意味があるから、もちろん受け入れられるわけです。
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音校生活は親娘でてんてこ舞い!