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教えてくれたのは…
医学博士 / 東京女子医科大学脳神経外科頭痛外来 客員教授
清水俊彦先生
汐留シティセンターセントラルクリニック頭痛外来ほか多数の病院で、一日平均約200人の患者を診察する頭痛治療の第一人者。著書に『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)ほか多数。
「マスクで頭が痛い……」はなぜ起こる?
清水俊彦先生
コロナ禍のマスク着用で増えた片頭痛を私は『マスク頭痛』と呼んでいます。コロナの感染予防に推奨された不織布マスクは、飛沫抑制効果に優れている反面、通気性が悪い綿密な化学繊維製です。その不織布マスクを顔にフィットするように装着すると、自分が吐き出してマスクの中にたまった二酸化炭素を吸うことになります。
二酸化炭素には脳の血管を拡張する強い作用があります。マスクをつけたまま呼吸をすることで、動脈中の二酸化炭素濃度が通常よりもわずかに上昇し、結果、脳の血管を拡張して、そのまわりの三叉神経を刺激。それが原因で片頭痛が起こるのです。
また、マスクをつけている間は心身ともに緊張状態にあることが少なくありません。自宅に帰るとホッとしてマスクを外してリラックス。すると副交感神経が一気に作用し、脳の血管が拡張して三叉神経を刺激することでも、片頭痛が起こります。
中にはマスクやマスクのひもが皮膚にあたって、ピリピリとした痛みを感じる方がいらっしゃいます。これは『アロディニア(異痛症)』といわれる酷い片頭痛の予兆です。片頭痛の患者さんは三叉神経が敏感で少しの刺激でも痛みを感じやすいという特徴があります。この予兆のあとに強い片頭痛が起きる人が少なくありません。
【マスク頭痛】を放置するとどうなる?
清水俊彦先生
片頭痛と同様にマスク頭痛も脳が異常に興奮している状態です。それを放っておくと脳血管周囲の三叉神経の炎症が長期間くり返され、その情報が大脳に伝わり、脳が少しの刺激でも興奮しやすくなります。脳の興奮状態が慢性化すると、ささいな刺激でも頭が重く感じたり、脳が誤作動を起こしたりして、耳鳴りやめまい、不眠などの症状が出ています。
マスク頭痛の予防と対策
清水俊彦先生
マスク頭痛の予防にはマスクを外せればよいのですが、まだ今後もマスクを手放せない場面は続くと思います。それでも、まわりに人がいない場合や屋外など、マスクをはずしてもよいシチュエーションではできるだけ外し、ゆったりとした深呼吸をして、血中の二酸化炭素濃度を下げましょう。
またブドウ糖には拡張した血管を収縮する作用があります。そこで、頭痛を感じたら、飴、ドライフルーツ、果物など、ブドウ糖を含む食品を少し摂ることもおすすめです。ただし、チョコレートはブドウ糖を含みますが、片頭痛を引き起こす可能性があるチラミンという成分が含まれているので、摂りすぎには注意しましょう。
マスクをし続ける必要がある場合には、前日の晩からマスクを浴室につるして、湿らせることも片頭痛対策に。喉が乾燥すると口腔内に分布する三叉神経が刺激されます。一晩浴室につるした湿気を吸ったマスクを着用することで、口腔内に分布する三叉神経の刺激をやわらげて、片頭痛が起こりにくい状態をつくることができるのです。
マスクを完全に外すことができるその日まで、自分なりの対処法を取り入れて片頭痛が起こらないような対策をしてください。それでも片頭痛が続く場合、自己判断で市販の鎮痛薬を飲み続けても根本的な問題の解決にはなりません。それどころか薬物乱用頭痛を招く恐れもあります。できれば早めに頭痛外来などの専門医で治療を受けましょう。
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イラスト/二階堂ちはる 取材・文/山本美和
Edited by 西村 美名子
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