伊藤聡さん
いとう・そう
1971年福島生まれ。会社員兼ライター。映画や海外文学を主な題材に、BLOGOS、Real Soundなどに寄稿。雑誌『Pen』でスキンケアと美容をテーマにした「グルーミング研究所」を連載中。著書に『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)、『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』(平凡社)がある。
義務感では続かない。自分自身がやっていて楽しいということが一番
VOCE編集部 渕祐貴(以下、渕)
コロナ禍きっかけで、オンライン会議が増えたこともあり、男性が自分の顔をまじまじ見る機会が増えたんですよね。僕は仕事柄、化粧品会社のメンズブランドの担当の方たちと話す機会が多いんですが、最初の頃はどのメンズブランドさんも「男の身だしなみ」とか「スーツと同じく、男の武器」みたいなメッセージを発信していたんです。でも、そういうメッセージからは、義務感が生まれてしまい、気持ちが置いてけぼりにされちゃっていたんですよね。
そうした課題を感じる中、根本は「自分自身が楽しいということが一番なんだ!」という話をメンズブランド各社さんとシェアしているタイミングで、伊藤さんの本を読ませていただいて、僕たちがまさに感じていたことが書かれていると感じました。
伊藤聡(以下 伊藤)
嬉しいです。これは私自身も実感していることですが、美容に限らず、どんなことも義務感になったら誰もやらないですからね。1月1日に気合いを入れて「今年こそ日記を書くぞ」と決意しても、絶対に続かないですよね? 続けなければと決意している、その時点で無理がある話なんですよ。
メイクやスキンケアも同じで、ちょっと前までは「ビジネスパーソンとして〇〇しないと負けだぞ」「女にモテないぞ」といった空気が世の中的にもありましたが、不安感をあおったり脅したりするやり方では、広がり方に限度があると思います。
伊藤
はい。『僕メイク』は何度も読ませていただきましたし、素晴らしい本だとお伝えしたいというのが、今回の対談においての私の裏テーマです(笑)。『僕メイク』はスキンケアやメイクの話題を中心に、物語形式で綴られているのに対し、私の本はネタ要素が多くなった部分はありますが、主人公・前田一朗の心の動きには共感するところばかりでした。一朗が「師匠」と呼ぶ女性にコスメのことをいろいろ教えてもらって、勉強していくというところとか、私自身の美容の入り口と同じなんですよ。あまりに同じ流れすぎて、パクリ疑惑が出ないか不安になるくらい(笑)。それくらい共感したし、とても良いテーマだなと思いました。と同時に、男性が美容をすると、少なからず同じ道を突き進むんだなとも改めて感じました。
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ついつい結果を求めてしまいがち