【執筆したのは……】
鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門
ツルツルがイケてる?
スキンケアを始めてから、ひげ剃りが気になるようになりました。毎日、肌に刃物をあてて、ダメージがないはずはありません。また、青ひげを隠すかどうかも迷います。メンズメイクでは、コンシーラーを塗っている人も多いようです。
「毛」はなにかと悩みの種になります。学生の頃、毛深いのは「イケてない」ことでした。雑誌には脱毛グッズの広告が載っており、男性モデルの身体はツルツル。男らしいようにも思える毛深さは、野暮ったさのしるしだったのです。私は色白で毛深く見えたので、よくからかわれました。
あるとき、そんな価値観が相対化される出来事がありました。大学に入り、高校の元クラスメイトと、大学からの知人と三人で話していたときのこと。元クラスメイトは、高校のときのノリのまま「こいつ、毛深いんだよ」と私のことをからかいました。嫌でしたが、慣れていたので、私も「うるさいな」と返しました。
しかし、違う地方からやってきた三人目の彼は、驚いた表情でこう言ったのです。「えっ!? 俺たちのところでは、毛の薄いほうが男らしくなくて、恥ずかしかったんだけど……」それを聞いて、元クラスメイトは黙り込んでしまいました。彼は、自分の体毛が薄いことを自慢にしていたからです。
毛深いことをどう捉えるか、それは文化の問題です。薄毛がイケていたとしても、それはある集団でそういう趣味が共有されているだけ。ようするに、流行なのです。身体のあり方は、流行の影響を受けています。たとえば、かつてスカート男子として登場した武田真治さんが、いまでは筋トレで有名になっていることも、時代の気分を反映しているのではないでしょうか。体毛や体つきだけでなく、毛穴やかかと、コンタクトレンズやデコルテなど、かつては美容の対象ではなかった部位が、いつの間にか「美容化」されていることもあります。
自分の身体が嫌い
男性語り合いグループ「ぼくらの非モテ研究所」編著『モテないけど生きてます』によれば、自身の毛を毛嫌いする男性は少なくないそうです。
『「カミソリで毎日剃っている」「脱毛クリームを塗っている」「永久脱毛処理をした」という参加者もいるが、それは自分の身体を美しくしたいというポジティブな心理からではなく、むしろ毛深い自分の身体から逃れたい一心でなされている場合が多い』(同書128頁)。
ここで示されているのは、男性が男性の身体を嫌悪していることです。これは、流行だけでは説明できません。複雑なのは、自分の身体の「男性的」な特徴を嫌悪する一方で、いわゆる「女性的」な特徴も同時に嫌っている点です。そういえば、私は自分が毛深いことが嫌でしたが、同時に色白であることにもコンプレックスを持っていました。
私は、自分そのものが嫌いだったのだと思います。だから、自分の身体が嫌いだった。自分でなくなりたかった。もう「私」でいるのがいやだった……。これは、きわめて人間的な感覚だと思います。できれば消したいと思っている自分において、セルフケアするのは難しいことです。そんなとき、唯一ラクになる方法は、自分を否定することでしょう。私にも経験があります。自分を壊すしか、生き延びる方法がない時はあるのです。
男性のセルフケアがサウナ・筋トレ・禁酒といったマゾヒスティックな方法に偏りがちなのも、「俺でなくなりたい」「でも、俺は俺でしかいられない」のあいだで、男性たちが引き裂かれているからかもしれません。
どんな別のしかたがあるでしょうか。「身体的特徴を気にしなくてもいいんだよ」と言われても「よし、明日から気にしないぞ!」と思うなんて、無理な話です。私の身体は相変わらずそこに存在するし、いま生きている社会から急に脱出できるわけでもない。残念ながら、世間もすぐには変わらない。そんなとき、メイクは力になってくれます。たとえば脱毛やコンシーラーなどの方法は、手軽で具体的な解決策になり得ます。
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