仕事がほとんどない時期8の年間、介護施設でアルバイトしていた。前相方の不祥事でコンビを解消し、謹慎処分を受けていた期間もそうだ。「あぁ芸人としての僕はもう終わったんだなぁ」「こんな奴、誰も使いたがらないだろうし、コンビを組んでくれる奴もいないだろう」「歳で就職なんてできるのかなぁ」……そんな事を毎日グルグル考えていた。
そんなある日、介護施設利用者のおじいちゃんの車椅子を押しながら並木道を歩いていたら、いきなり一言、「お兄ちゃん、芸人なんだろ? 頑張れよ」って。僕が人生のドン底にいることなんて何も知らず、ただまっすぐに応援してくれて。それを聞いた時、「世間には自分のことをまったく知らない人がまだまだたくさんいるし、自分から見える世界はほんの一部なんだ」と気がついた。
前の相方とのコンビ時代は、僕は気づけば相方の思い通りに動く操り人形になっていた。「間違っている」と思っても相手の機嫌が悪くなるのが嫌で言い出すことができなかった。キレられるくらいなら黙って言うことを聞いていよう、と思っていた。ただ、ただ、時間がすぎるのを待っていた。
「僕はダメな人間だ」「全部僕が悪いんだ」と思うようになった。自分がちっぽけに思え、「こんな何もできない芸人、消えていなくなればいいのに」と、自分の中にいる誰かが囁くのが聞こえることもあった。
コンビが解散となり、運よく僕のマインドコントロールは解かれた。あの時、なぜ、あんなにも自分で自分自身を縛っていたのか、今でも上手に説明できない。どのみち、あの状況が続いていたら、空中分解するか、操り人形のまま、まだあの場所で人生を浪費していたのだろう。
学校や会社、あるいは人間関係でうまくいかなかったり、辛いことを我慢していたりする方は多いと思う。「もう人生終わりだ」みたいな考えになってしまう方の気持ちもよくわかる。そんな方は、自分がいるコミュニティがすべてではなく、めちゃくちゃ小さい世界だということに気づいてほしい。我慢しようとするのではなく、逃げる、離れる、スルーすることを選択肢に加えてほしい。
「まだ、終わってねぇじゃん。この世は僕が芸人として終わったことなんて知らねぇ人ばっかじゃん!」
バイト中に声をかけてくれたおじいちゃんの一言で「今いる世界がすベてじゃない」と気づくことができた。逆説的だけれど、そう考えられるようになったら、自分の意志ひとつで「いつでも逃げていい」、「いつでもやめられる」のだから、「ここから動かず踏ん張ってみよう!」と考えられるようになった。
逃げてもいい、踏ん張ってもいい。とにかく自分の人生のアクセル、ブレーキは自分でコントロールできる。自分で、行き先も決められる。車から今すぐ降りてしまったっていい。
自分の人生のハンドルはいつだって自分が握っている。それを自覚できればかなりラクになると思う。
『自分を大切にする練習 コンプレックスだらけだった僕が変われたすべてのこと』
形式:ソフトカバー 四六判 224ページ(2色192ページ/カラー 32ページ)
価格:¥1650(税込)
発行:講談社 ISBN:978-4-06-530216-3
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りんたろー。
1986年生まれ。2008年4月、東京NSCに14期生として入学。2017年末に兼近大樹を誘い、お笑いコンビ「EXIT」を結成。ネオ渋谷系チャラ男漫才と称するしゃべくり漫才のツッコミを担当。ネタ作りも担う。
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撮影/魵沢和之(まきうらオフィス)
Edited by 大森 葉子
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