連載 メンズメイク入門

おじさんが赤いリップを塗って街を歩いて気づいたこと【連載第6回目】

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「男らしさ」の壁

ホッとした反面、これでは男らしさの壁を破壊することができないじゃんと思った私は、あわててコスメショップでアイテムを買い足しました。オレンジがかったブラウンのリップ。肌なじみはいいものの、明確にメイクしていると分かるタイプです。美容部員の方に「かわいいですよ」とか言ってもらいつつ、自分を奮い立たせて強い色を選びました。これで反応がもらえるだろうか? もはやライブで推しからファンサービスを求める人の心境です。

リップを塗り直して店の外へ出ると、少しは視線を集めることができました。それでも「あ、メイクしているな」というくらい。私の顔を見た人も、ほぼ全員がすぐに目を逸らしました。視線をよこしたあと、「見てないですよ」というふりをするのです。

面白かったのは、子どもです。いっさい遠慮なし。ジ~~~ッと見てくれました。(もしかすると、たんに人の顔を凝視するタイプの子どもだったのかもしれませんが……。)

しかし、今回私がそれほど不愉快な視線にさらされなかったのは、私が比較的体格のいい成人男性だったからではないか? と後から気が付きました。いわゆるマジョリティとされている集団に属していることによって、唇にちょっと色をのせただけでは、不躾な視線にさらされにくくなっていたのではないでしょうか。

私がもっと若かったり、あるいは年をとっていたり、異なる属性を持っていたら、どうだったでしょうか? もしかすると、ジロジロと見られ、容姿をあげつらわれ、理不尽な説教を受けるなど、「二度とメイクなんてするものか」と思わされる経験をしていたかもしれません。私は、男らしさの壁を破ろうとするつもりで、じつは自分の持つ男らしさに守られていたようにも思うのです。

誰でも、メイクするもしないも自由。それは理想です。しかし、あらためて「見られる側」の経験をしてみると、そもそも私自身が乗っかっている、アンフェアな土台の存在を意識せざるを得なかったというのが正直なところでした。

メンズメイク入門6回目

<左上から時計回りに>
LAKA スムースマット リップスティック ¥1800/I-ne
LUSH 保湿バーム 歌舞伎 ¥1510
キールズ バタースティック リップ トリートメント ¥2200

Edited by 大森 葉子

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