連載 メンズメイク入門

おじさんが赤いリップを塗って街を歩いて気づいたこと【連載第6回目】

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メンズメイク入門6回目

「男性もメイクは当たり前!」「男性も美容感度が高まっている!」。そんな雰囲気を感じはするけれど、本当に社会はそうなっているのでしょうか? 「メイクがしたい!」と思いたったものの店先で逡巡していた著者が、ついにカラーアイテムで唇を染めて、街へ出た! そして、著者が気づいたことは、とても意外なことでした。

【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

男は男をよく見ている

男性モデルがコスメブランドの広告に登場することが増えてきました。メンズコスメではなく、口紅などの広告です。たとえば、所属するSnow Manの新曲『KISSIN’ MY LIPS』とともにディオールのリップの広告に登場したラウールさん。男性から見ても「綺麗だな」と思うヴィジュアルに、価値観が塗り替えられるのを感じました。

モデルになるのは、今をときめくスターだけではありません。ジェンダーレスブランド「LAKA」のモデルは、比較的一般的な男性像に近いことを、ライターの有馬ゆえさんが指摘しています。韓国をはじめ海外でも、メイクが普通の男性の自己表現であり得ることが、広告のレベルで肯定的に示されるようになっています。

かつて『男の化粧に賛成だ。そんなことは男の本質と関係ない』(『男の化粧』/作品社『日本の名随筆 化粧』 より)と書いたのは作家の田辺聖子ですが、今や現実に、メイクはジェンダーを超えた文化になりつつあるようです。

「ついていけない!」と思う人もいるかもしれません。「化粧なんてしたくないよ」と思う人だっているでしょう。そういう意見があって当然。私も、メイクが「デキる男の常識」とみなされ、身だしなみ労働の一部となっていくのなら、先回りして「NO」と言っておきます。そうではなく、自分を飾り、装うことで生きやすくなる回路を、男性が持ってもいいのではないか。そんなポジティブな選択肢として、メンズメイクは広がってほしいと思います。

メンズメイクは、男性たち自身の問題です。というのも、男性のメイクを抑圧してきたのは、ほかならぬ男性たち自身だからです。薬用リップクリームはよくて、色付きリップはダメ。洗顔はするが、スキンケアはしない。そんな恣意的な境界線を決めていたのは、けして女性たちではなかったはずです。

男性は男性のことをよく見ています。簡略化された仕事服であるスーツに、色のお洒落なネクタイを巻いてみれば、即座に「奥さんに買ってもらったの?」とチェックが入る。あたかも、「労働者にふさわしいか」「度を越して美しくないか」をチェックしているかのようです。前々回「ダサグレー現象」について書きましたが、令和になった今も、「明るくて華やかな色をまとう」ことは、中年男性のコミュニティでは挑戦的な態度と見なされます。でも、そんなの窮屈ではないでしょうか?

赤いリップを塗って、街へ出た

口で言うのは簡単なので、実践してみました。ある週末、唇に赤いリップを塗って、街へ出てみたのです。色の濃いリップを選ぶのは、勇気が必要でした。これまでベースメイクや眉サロンなどを試してきましたが、なんだかんだで「バレないメイク」の範囲内。メイクアップというほどでもなかったからです。 

色をのせるメンズメイクについては、まだお手本を見つけることができていません。芸能の仕事をしている方は昔からメイクをしていますから、肌や髪の色合い、骨格などが似ている人を見つけ、真似したいと思ってます。迷いながら今回選んだのは、いわゆる色付きリップです。保湿のためのリップクリームやバームには馴染みがありましたが、色付きを買ったのは初めてでした。塗ると、唇がしっかり赤くなります。

私なりに、これまでに覚えた技術を尽くしました。スキンケアのあとに日焼け止めを塗り、化粧下地を付ける。パウダーをふり、眉に色を薄く付け、併せて買ったアイシャドウをまぶたに走らせ、色付きリップを唇に差す。鏡を見ると、きれいになった、と思いました。

でも、どんな風に見られるだろう? 正直言って、怖かったです。新しい男性像だなんだと、威勢のいいことを言っておきながら……。ぎょっとされたり、目を逸らされたりするのではないかと想像しました。すれ違いざまに「いまの人、メイクしてたね」と言われたりするのだろうか、と。

私は外へ出てみました。待っていたのは、考えてみれば当たり前の無関心でした。反応は薄かったです。(屋外で距離を保ちつつ)メイクした顔で人とすれ違うのですが、みんな、赤の他人の顔なんて大して見ていないのですね。

普段は鏡に自分の顔を近づけて見ているので、少し色味を変えただけでも「すごく変わった」と思いますが、2メートルくらい離れたところから見ている他人からすれば、細かな違いは分からないのです。肌荒れしても、気にしているのは本人だけだったりします。ある意味拍子抜けする結果でした。

※ソーシャルディスタンスには十分留意し、適宜マスクを装着しつつ行いました。

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