無責任に一生懸命頑張ることを煽られる時代の終焉
しかし、その「無責任さ」は自分以外のところにある。映画全体からも、「無責任に一生懸命を煽られ、成長のために頑張らされてきた自分たちは、何を得られたというのだろう」と振り返る思いが伝わってきた。その“成長”とは、個人の成長ではなく、社会のため、国のため、組織のため、そして経済のためといった、自分自身以外のもののために強いられたものではないか、その中で“自分”というものはないがしろにされているのではないかという目線が感じられた。
「一生懸命頑張ることを煽られている」という状態は、人々を疲れさせる。筆者は、2021年の3月に、日本映画大学准教授のハン・トンヒョン氏と共に『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』という対談本を出版したが、その中でハン・トンヒョン氏が『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』(18)――主演のIUの演技を見て、是枝裕和監督が『ベイビー・ブローカー』(22/6月24日公開)に抜擢したそうである――や、『椿の花咲く頃』(19)、『サイコだけど大丈夫』(20)を挙げながら、「何というかこれから感じるのは、韓国社会の人はみんな、疲れてるんだな、ということ」「その疲れた韓国人が、人とのつながりを求めたり、自分はひとりじゃないと感じられるものを求めているんじゃないかと」と語っている。
その傾向は今も続いている。2021年には『海街チャチャチャ』の放送が始まった。本作はソウルに住んでいた歯科医のヒロインが、経済的な利益を優先する院長を糾弾したことがきっかけで、海街を訪れ、田舎町での交流を深めていくというもの。
今年4月からスタートして日本のNetflixでも上位にランクインしている『私たちのブルース』も、済州島を舞台に、イ・ビョンホンなどが演じる島に暮らす人たちの人間模様を描いた群像劇である。これらの作品も、「疲れた」都会の人が、田舎町に行き、人との交流によって、新たな道を見つけ出すという一面のある作品である。
そもそも、韓国では2010年代中盤から、『私たちのブルース』の脚本家、ノ・ヒギョンの『大丈夫、愛だ』(14)や『キルミー・ヒールミー』(15)など、「ヒーリングドラマ」と呼ばれるものが、徐々に増えてきていた。その流れと、2016年に韓国で出版された『私は私のままで生きることにした』は、近いものがあるのかもしれない。
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社会に違和感をもつ2人が出会うドラマ『私の解放日誌』