「一生懸命生きる」から「頑張りすぎない」時代へ
韓国の映画やドラマ、そしてエッセイや小説に描かれるものが変化しているのではないか、そう思い始めたのは、2019年あたりからだ。きっかけは、2016年に韓国で出版され、100万部を超えるベストセラーとなった『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン)が2019年3月に日本で出版されたことにある(日本でも50万部を超えるベストセラーに)。その後、2020年1月には『あやうく一生懸命生きるところだった』(ハ・ワン)も翻訳された。
それまで、韓国の人たちは、成長を目指し、そのために「一生懸命に生きる」というイメージがあった。アイドルを見ても、厳しいレッスンの先に成功があると示されていた。しかし、これらの本では、他者と自分を比べることなく、自分を愛して生きていくことや、頑張りすぎないことの重要さが書かれていた。
2019年12月には、ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』も日本公開となった。全員が失業状態にある家族が、あるお金持ちの一家に「寄生」していく様子をコミカルに、かつシニカルに描いた作品であり、ご存じの通り、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞、米アカデミー賞では6部門でノミネートされ、作品賞を含む4部門を受賞した。
『パラサイト』の中では、ソン・ガンホ演じる一家の父親が息子に「絶対に失敗しない計画は何だと思う? 無計画だ。ノープラン。なぜか? 計画を立てると必ず、人生そのとおりにいかない。だから人は無計画なほうがいい。最初から計画がなければ何が起きても関係ない。人を殺そうが、国を売ろうが知ったこっちゃない」というセリフがあり、衝撃を受けた。
もちろん、これは額面通りに受け取ってはいけない。「人を殺そうが、国を売ろうが知ったこっちゃない」という言葉でわかる通り、“無責任な状態”を表している。
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無責任に一生懸命頑張ることを煽られる時代の終焉