内心が読めない鉄仮面ぶりを楽しんでいただきたい
——ドラマ「鉄の骨」は数々のヒット作を生み出している池井戸潤さんの同名小説が原作です。この物語のどこに魅力を感じましたか?
「僕らのような部外者が普段は知る由もない、建設業界の裏舞台が描かれていることが抜群に面白いですよね。とにかく、仕事を取るまでの戦いが凄まじいんですよ。談合を含めて、会社を守るためには綺麗事だけでは済まされない選択を迫られることがあるわけで。そこで奮闘する男たちの姿に魅力を感じました。だから今回は、辛酸を舐めてきたサラリーマンの、清濁の“濁”の部分にも共感してもらえるようなドラマにできればいいなと思っています」
——内野さんが演じる尾形総司は、主人公の富島平太(神木隆之介)の上司です。どのような人物として捉えていますか?
「部下の意見を一刀両断してしまうような、すさまじいパワーの持ち主です。でも、会社に対する愛情もすごく深くて、ある秘めた夢みたいなものを持っている。純粋な平太に影響されているところもあるのですが、一方でグレーなやり取りを指揮することも。一筋縄では行かないキャラクターなので、彼の本質は最終話まで分からないかもしれませんね。内心が読めないような鉄仮面ぶりを楽しんでいただけるように、日々、撮影現場で努力しています」
——主演の神木隆之介さんの印象を教えてください。
「神木君はどんなリクエストにも軽々と答えてしまう天性の柔軟な感性が、本当に素晴らしいですよね。僕はギリギリまで悩む方なので、あんなに飄々と期待に応えている彼を見ると嫉妬すら感じる時もあります(笑)。撮影現場でも、監督はもちろん、スタッフの方が彼の才能を信頼していることを感じます」
僕は“役者バカ”で、処世術には縁がなかった
——建設業界に限らず、芸能界もあらゆる“大人の事情”が存在するのではないかと思います。内野さんも、政治的なジレンマに直面して悩んだことはありますか?
「僕はね、これまで“役者バカ”で来ちゃってるので。芸能界の政治とか、処世術とか、そういったものとあんまり縁がなかった気がしていますね。でも、“大人の事情”はどこの世界にも存在して、そういうものに出くわして、作品の質が下がるのを見たくはないので、頑張りたいなとはいつも思っています。
出世するためにやりたくないことを我慢してやったとか、そういう経験はあんまりないですね。もし企画に疑問を感じたとしても『役者の力で面白くしてやろうじゃねーか!』と、逆に燃えてきちゃうところはありますね。何事も『やらざるを得ないから、仕方なくやる』という態度じゃ、おもしろくならないもんね。これまで、そういった仕事は、ひとつもないつもりでいます。すみません。期待はずれの回答だったかな!?」
——そんなことありません! ただ、談合とか、忖度とか、同調圧力とか……それぞれの会社で“大人の事情”に直面して悩んでいる読者も多い気がしまして。社会人の大先輩である内野さんに、立ち向かうためのアドバイスをいただけたらなと。
「アドバイスなんてできません! でも、僕のお仕事の現場では、言うべきことを言っていかないと、質は上がっていかないので、自分の領分を超えて意見することはままあります。でも、若い時よりは、相手のプライドや心の状態を考えてからナイスタイミングをはかることは多くなりましたね。でも、昔から、うかつな発言で失敗してきた方なので、世渡りに関しては逆に教えてほしいです(笑)」
——処世術を度外視して芸能界を生き抜くことができるのは、ひたすら真摯に実力を磨いてきたからだと思います。内野さんが、俳優としてブレずに貫いてきた仕事の美学を教えてください。
「ビガクとかビイシキとかそういう言葉の響き自体があんまり好きじゃないけど、大切にしていることは、台本をもらったときに、自分の心が動いた部分を突き詰めて伝達しようとしてるとこかな。『素敵なセリフだな』とか『怖い行動だな』とか、自分が感じたことを、しっかりと映像や劇を見る人にも届けたい。その気持ちがあるから、表現の仕事をしているわけで。どんな作品でも、『ああでもない、こうでもない』と、徹底的に悩んで現場に行くようにしています」
色気は本人が与り知らない部分に宿るもの
——どんな作品でも、画面から滲み出る大人の色気で女性ファンを翻弄している内野さん。ご自身の“美”を保つために、心がけていることはありますか?
「なんだか恐れ多い質問だな〜! 美というか、健康のために意識していることは“睡眠”、“運動”、“栄養”。以上です。夜更かししないで早めに寝るようにしていますけど、おじさんになると無駄に早く起きちゃうんですよ(笑)。なるべく寝る前のお酒は控えるとか、枕元にスマホは置かないとか、いろいろ睡眠の質を高めるための工夫をしてるものの、それがなかなかできない(笑)」
——では、女性が色気を演出するためには、どんな仕草をマスターすればいいですかね?
「なんだろうねえ……。だいたい、俺ね、人に見せるためにやっている仕草は全部嫌いなんですよ! ま、役者の仕事は人に見せるためにやってることではあるけども(笑)、日常生活でも自意識を持ちながらやっている仕草より、何も意識しないで一生懸命にやっている仕草を見たときのほうが、僕は色っぽいと感じますね。だから、チラ見せ下着とか、意図的に色気を演出するのは、いかがなものかと。一心不乱に仕事に取り組んでいるときに、図らずもブラの紐が肩からのぞいてる、とかがいいんですよ(笑)。本人が与り知らない部分に色気が宿るわけで、その仕草を研究してもらっちゃ困るなと(笑)」
——メイクも“モテ”を意識しないほうが良いですかね?
「どうですかね。そもそも自分が素敵だと思うメイクと、人が素敵だと思うメイクは、重ならないことが多いと思うんですよね。自意識はアテにならない気がします。だから、自己満足を追求するのも楽しいと思いますが、積極的に他者の意見を取り入れていったほうが、結果的にモテにつながるような気がしますね。おじさんの意見なので、くれぐれも鵜呑みにしないでくださいね(笑)」
■プロフィール
内野聖陽(うちの・せいよう)
1968年9月16日生まれ。神奈川県出身。早稲田大学在学中に文学座研究所に入所し、俳優の道へ。NHK大河ドラマ「風林火山」で主演するなど、数々のドラマや映画に出演。昨年はドラマ「きのう何食べた」でゲイの美容師・矢吹賢二を演じて話題に。
■インフォメーション
「連続ドラマW 鉄の骨」
ベストセラー作家・池井戸潤による同名小説をドラマ化。「談合は“必要悪”か」をテーマに、中堅建設会社「池松組」の若手社員・富島平太(神木隆之介)と池松組を支える切れ者の常務・尾形総司(内野聖陽)らの奮闘する姿と、談合をめぐるさまざまな思惑を迫力ある人物描写で描いていく。
4月18日(土)夜10:00より、WOWOWプライムにてスタート!!(全5話・第1話無料放送)
出演/神木隆之介、中村獅童、土屋太鳳、小雪、柴田恭兵、向井理、石丸幹二、内野聖陽ほか
撮影/三宅祐介 ヘアメイク/宮本奈々 スタイリスト/中川原寛(CaNN) 取材・文/浅原聡
Edited by VOCE編集部
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