今回のゲストは元宝塚歌劇団・月組二番手男役スターの美弥(みや)るりかさん。その姿はまるで美の化身! 強いこだわりを持ち「自分の個性」を追求し続ける。そこが揺るぎない美弥さんの魅力。はじめに宝塚時代のお話から伺いました。
奇跡のようなことがたくさん起こった宝塚時代
美夢ひまり(以下 美夢):るりちゃん(※美弥さんの愛称)と宝塚の出会いから教えてください。
美弥るりかさん(以下 美弥さん):小学生の頃にテレビで見たのが宝塚との出会いです。月組の『川霧の橋/ル・ポワゾン』を見たのですが、涼風真世さんがあまりにも輝いていて、見終わった後に「私も宝塚の男役になる」って決めて親に伝えました。そこから母も一緒に宝塚にはまってくれて、涼風さんの入り出待ちもしていたし、お茶会も行っていたんですよ。
美夢:そうなんだ!
美弥さん:宝塚の男役になるって決めたものの、バレエをやっていなかったので、親にお願いしてバレエのレッスンを始めました。とにかく早く上達したかったので、バレエ団に入団して毎日レッスンしていましたね。365日、毎日。
美夢:毎日!
美弥さん:私は宝塚のためにバレエを始めたのですが、入ったところがバレエ団だったのでみんな本気でバレエをしている人ばかりで。自然と私も本気になってコンクールに出たり、フランスにバレエ留学にも行ったりして。結果、宝塚を観る時間がなくなって、バレリーナになろうかなと思った時期もあったんです。ですが、中学三年生の時に久しぶりに宝塚を観劇して、スターさんの入り出も久しぶりに見て、「あぁ私ここに入りたかったんだ」って気持ちを思い出しました。そのためにバレエも始めたのだから、一度は受験しようって。
美夢:やっぱり宝塚が好きだったんだね。
美弥さん:そうですね。涼風さんのファン活動をしているとき、小学生でとにかく私が一番幼かったので、ファンの方皆さんが可愛がってくださって。その時出会った方々が、私が宝塚に入ってからもずっと応援してくださいました。あと、ファン時代に出会った方と仲良くなって一時期文通していたことがあったんですね。私が宝塚音楽学校に合格して授業などが始まり、連絡ができなくなってしまったのですが……、最後の新人公演で主演をさせていただくことが決まった時、初めて取材というものを受けることになって。緊張しながら現場に行ったら……カメラマンさんがその文通をしていた方だったんです!
美夢:えええ! すごい!
美弥さん:すごくびっくりしました。嬉しかったですね。宝塚時代は本当に奇跡のようなことがたくさんありました。
組替えは寂しいとも感じましたが、自分が生まれ変われるチャンスだと思いました。
美夢:初舞台が月組だったんだよね。初舞台の時からとにかく綺麗で、踊りが上手くて目を引く存在だったけど……下級生時代はどんな風に過ごしていた?
美弥さん:私は月組ファンでしたし、初舞台ってものすごく濃い時間を過ごすから自然と「このまま月組に入りたいな」って思っていました。組配属で星組になり最初は「どうしよう……」って気持ちが正直ありました。
美夢:月組と星組はカラーが全然違うしね。
美弥さん:そうなんですよ。星組はすごくエネルギッシュなイメージがあって「自分は体育会系というタイプでもないしどうしようかな」と思ったのですが、長年いるとやはりそこが自分のHOMEになるというか、舞台人としての基礎も星組で学びましたし、人間としても成長させていただきました。でもその後組替えで月組に異動になって。
美夢:そうなんだよね!
美弥さん:研10(研究科10年)での組替えだったので、タイミングとしても良かったです。その頃の星組はスターさんも多くて、その中で「自分の個性をもっと出すにはどうしたら良いのかな?」「このままでまだ自分は成長できるのかな?」と不安に思っていた時期でもあったんです。組替えは寂しいとも感じましたが、自分が生まれ変われるチャンスだと思いました。「男役10年」と言いますし、一つの区切りになりましたね。
美夢:『ロミオとジュリエット』からだよね。
美弥さん:そうです。龍真咲さんのトップお披露目公演からだったので、新しい月組がスタートするときでそれもタイミングが良かったです。
美夢:フィナーレで銀橋も渡ってね。客席から観たときすごく嬉しかった。
美弥さん:それまで1人で銀橋を渡ったことがなかったので、初日は緊張で死にそうでした。でも嬉しかったですね。
あんなに喜びや感謝で感動したことは人生で初めて。
美夢:在団中一番の思い出は?
美弥さん:宝塚で過ごした時間は濃すぎて一番って難しいな……。でもやっぱり「グランドホテル」で涼風真世さんが演じられたオットー役をさせていただいたことですかね。大劇場公演の初日には涼風さんが客席にいらっしゃっていて。自分が客席で観ていた方で目標でもありずっと憧れていた方だったので、「その方がされていた役を今自分がしていて、その方が客席で観ている」と思ったら心が震えすぎて……あんなに喜びや感謝で感動したことは人生で初めてでした。終演後には涼風さんとお話しすることもできて、感動で泣きすぎてしまったのですが(笑)、すごく素敵なお言葉をいただきました。私の退団公演も来てくださって、宝塚の伝統というか先輩から後輩に引き継がれる文化があるからこそのご縁だなと感謝しています。
みんなが綺麗になってみんなが進化していったら、舞台がもっと良くなるんじゃないかと考えていました。
美夢:在団中一番メイクにこだわった役は?
美弥さん:一番挑戦したのは「1789」のアルトワ伯ですね。演出の小池先生ともたくさんお話をして、他の人と同じ時代を生きているのに、その人だけ異色で、見るからに怪しげで色気があって……という存在にしようと。かつらの形もいろんな方のお知恵を借りて考えましたし、メイクも普段の男役のベースメイクは捨てて「陶器のような、血が通っていない蝋人形」みたいな色にしようとかなり研究しました。ただ白くするだけではなく、普段使わない青いドーランをベースに仕込んだら、時間が経つと青みが出て冷たい印象が出るかなと試してみたり。蝋人形みたいな肌といっても陰影は必要なので、ハイライトは何を使ったら良いのかなど色々と研究しました。メイクはもともと時間がかかるほうなのですが、この役はいつもより時間をかけていましたね。この頃からメイクに関してこだわりが強くなりました。
美夢:特にどのパーツにこだわっていた?
美弥さん:ベースはもちろん大事なのですが、一番はアイメイクですね。それまではすごく「線」にこだわっていたのですが、ある時にその「描いている感」をなくしてグラデーションで彫りの深さを表現してみたいなって思ったんですね。宝塚メイクにはマニュアルというかベースはあるのですが、そこにとらわれずに自分流の描き方をしてみようと勇気を出しました。そうすると下級生からメイクの質問をされることが多くなって、「あぁみんな変わりたいんだな」って思って。そこから、自分が率先していろんなものを取り入れていこうという気持ちになり、自分で色々やってみて「これは良い!」と思ったメイクテクニックや、メイクアイテムはどんどん下級生に伝えていました。
美夢:自分で研究していたことを惜しみなく伝えていたんだね。
美弥さん:ポスター撮影でヘア&メイクアップアーティストのCHIHARUさんにメイクしていただいたときは、「学んだことをとにかくみんなに伝授しないと!」と。組子全員がCHIHARUさんにメイクしていただけるわけではないのでね。そうやって伝えることでみんなが綺麗になって、みんなが進化していったら舞台がもっと良くなるんじゃないかと考えていました。
コンプレックスに感じていた部分を自分の個性に
美弥さん:オットー役を演じたときに感じたことが大きいですね。それまで「男役」という鎧にとらわれすぎていて「男ってこういうものだ」と決めつけてしまっていました。それが、心が動く幅を狭めていたなと。オットーが病弱という設定もあったせいか、そこまで「男」を意識せず演じることができたので、自然とその鎧が脱げていく感覚がありました。男性も女性も魂は同じなんだなと気づき、そこから心が動く幅が大きくなって、表現することがすごく楽しくなりましたね。自分はほかの男役の方に比べて華奢でしたし、星組時代は弟キャラの役が多かったのですが、この時期あたりからコンプレックスに感じていた部分を自分の個性に変えたら良いんじゃないか、中性的でも良いじゃないと思えるようになりました。『BADDY』というショーでいただいた「スイートハート」という役はまさに男でも女でもない役で、男役の鎧を着たままの自分だったら迷ってしまってできなかったと思います。この役を自分に当てていただいた意味を考え、「美弥るりかはこれで良いんだ」って思えました。毎日とても楽しくて、「自分の中での男役像が確立したな」とストンと落ちた部分があって、この頃から退団を意識し始めましたね。
【美弥るりかさん・プロフィール】
2003年に男役として宝塚歌劇団に入団(89期)。初舞台公演後、星組に配属。2010年新人公演主演。2012年月組へ組替え。幅広い役柄を好演し、人気と実力を兼ね備えた男役スターとして活躍。2019年6月宝塚歌劇団退団。今後は、舞台だけでなく様々なジャンルへの可能性を広げていく。
撮影/MARCO、取材・文/美夢ひまり
Edited by 三好 さやか
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