『xxxHOLiC』
著者:CLAMP
現代人の胸に刺さる“対価”という言葉
累計1400万部超えの伝説的人気漫画『xxxHOLiC』。4/29からは蜷川実花監督による実写映画が公開されることでも話題になっています。このマンガがなぜこれほどまでにヒットしたのか。それは妖艶で魅惑的な作品の世界観とビジュアルにもありますが、一番は、そのメッセージが現代に生きる私たちにあまりにも刺さったからではないでしょうか。それは、「願いを叶えるには対価が必要」というもの――。
主人公の四月一日君尋(ワタヌキキミヒロ)は、アヤカシを引き寄せてしまうというやっかいな能力に苦しんでいます。その能力がなくなり、普通の生活を送りたい。彼の願いはただそれだけです。
そんなある日、四月一日はある“ミセ”に導かれ、侑子という不思議な女性と出会います。そして彼女は四月一日の願いを叶えてあげる代わりに、こう言うのです。「対価を支払え」と……。
しかし自分の大切なものが何か分からない四月一日。彼は侑子の“ミセ”で働きながら、「対価とは一体何か」ということを学んでいくのです。
自分が何を願っているのかすら気づいていない
侑子の“ミセ”には、叶えたい願いを持つ様々な人が訪れます。でも読んでいてどこか不気味なのは、“ミセ”に来る人たちは、自分の願いが何なのか自分では気づいていないこと。
ある日やって来た女性もそうです。彼女は自分の虚像を求め嘘を重ねた結果、心が限界に達しているのですが、そのことに全く気づいていません。
そして願いに気づかないまま進み続けた結果……。
……この女性の虚飾、何かと重なる気はしませんでしょうか? そう、SNSでの“盛り”です。私たちは昨今、気軽に“素敵な自分”を作り上げ、それがあたかも本当の自分かのように世の中に発信しています。でもそこには対価が生じている。その行く先は彼女と同じかもしれない。そう思うと、少なからずゾッとしてしまうものがあるのです。
対価とはすなわち覚悟でもある
けれども『xxxHOLiC』は、決して「願いには対価がともなうんだぞ」と脅すだけの作品ではありません。侑子は頼まれた願いを叶えはしますが、その叶え方はやや中途半端です。たとえばネット中毒に陥り「パソコンをやめたい」と願う主婦。侑子は彼女のパソコンを叩き切りますが、その先の行動は彼女自身に委ねます。
侑子に対して「もっとしっかり願いを叶えてあげればいいのに」と感じる四月一日。でも侑子は四月一日に、こんなことを言うのです。「選ぶのは自分だ」と。
侑子は決して、ただお代として対価を支払えと言っているのではありません。彼女が求めているものは自分への約束、すなわち覚悟でもあるのです。
対価をともなうからこそ、選択が重要になる。そしてその選択次第で自分の人生は変えられる。侑子が客たちに投げかけているのは、実はそんな前向きなメッセージのような気もするのです。
世の中にあふれ返っている情報に振り回されたり、他人と比較ばかりして落ち込んでしまったり……、そんな人は多いことでしょう。『xxxHOLiC』は自分が本当に欲しているものをシンプルにしてくれる一作。そこから、自分がどう生きたいのかを考えるきっかけも、もしかしたらもらえるかもしれません。
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取材・文/山本奈緒子
Edited by VOCE編集部
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