何世代にも渡って続いた負の時代。
閉ざされた世界からの女性の解放と目覚め
“キム・ジヨン”を作りだした負の連鎖は、彼女の母の世代まで遡ります。彼女の母親・ミスクはその昔教師を目指していましたが、ジヨンたちを育てるために夢を諦めたことが劇中でわかります。女性が夢を持つことなど必要ないとばかりに、この期に及んで父親はジヨンに「仕事なんかしなくていい、女は家にいろ」と言います。そんな父に母は、「娘の世代まで家に閉じ込めさせる気か」と言わんばかりに初めて反発を見せるのです。母の世代も、その前の世代から引き継いだ悪しき性差別の闘いに沈黙を続けてきたことがうかがえます。
“キム・ジヨン”という人物のフィルターを通して、これまで気づかぬふりをしてきた自分自身の本当の悲しみや怒りに触れること、疑問を持つこと、それに対して声を上げることができる時代まで、ようやくたどり着くことができたと言えるでしょう。
“キム・ジヨン”というイメージの共有。
女性の目覚めを促す警鐘としての存在
社会と断絶され、女性であることで虐げられてしまう声なき女性=キム・ジヨンというイメージではなく、間違っていることには堂々と声を上げ、胸を張って社会で生きていく人間=キム・ジヨン、という共通イメージを今後世界が持てるかどうか。キム・ジヨンが劇中で“ママ虫(育児もろくにせずに遊びまわる害虫のような母親を意味する)”と呼ばれたことに腹を立てて食い下がったシーンがありますが、彼女のように行動を起こすか、それとも今まで通り我慢に屈するか、私たちも今、分岐点に立たされているのだと思います。
今こそ、日本の女性が社会での違和感を認識し、自分自身の内なる声を聞いて、目覚めることができるかどうか。『82年生まれ、キム・ジヨン』は決して男性への警告だけではなく、女性から女性自身への目覚めを促す警鐘でもあるのではないでしょうか。
文/鎌田亜子
Edited by 大森 葉子
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