宝塚人生の最後に辿り着いた場所は、役者・愛月ひかるという存在
──在団中の最後はコロナ禍に見舞われてしまい、星組の公演が止まってしまったことも。愛月さんはどんな気持ちでその時期を過ごしてらっしゃいましたか?
愛月さん
舞台に立ってお客様に観ていただけることが、今までは当然でしたが、当たり前のことではないのだと、普通に続けられていたことがどれだけありがたいことなのかと、本当にそればかりを思って舞台に立っていました。宝塚は外部の劇団や演劇のカンパニーと異なり、“退団”がありますから、一度できなくなったからといってそれを先延ばしにすることができないんですよね。私の場合は、星組に組替えになった時点で「あと3作くらいかな」と自分の中で決めていたので、コロナに関わらず悔いのないように、一公演、一公演、もちろんいつでもそうなんですけど、やれるだけのことはやろうという思いはすごく強かったです。
──退団公演となった『柳生忍法帖』では、芦名銅伯という不死身の身体を持つ役を演じられましたね。「ラスボスキャラを演じさせたら、愛月さんの右に出るものナシ」というウワサが立つほどパンチの効いた役柄に挑戦されていましたが、ご自身はそれをどう感じていましたか?
愛月さん
音楽学校のころからそうだったんですが、何が一番苦手って、お芝居が恥ずかしくて、私……。元々すごい赤面症であがり症。演劇の試験でひとり芝居をするのも恥ずかしかったですし、男役の声をつくっている自分にも違和感がありましたし。憧れていた世界に入って、自分の身長では男役しかできないと分かっていましたが、元々は娘役になりたかったんです(笑) だから余計にお芝居に苦手意識が強くて。でも、シメさん(編集部注:紫苑ゆうさんの愛称)の“宝塚の男役!”という品格を教えてくださる授業のおかげで演劇が大好きになりました。
愛月さん
それでも、一応“正統派男役”を目指して劇団に入ったので、まさか最後に「この役は愛月にしかできないよ」みたいな奇怪な役ばかりやる人になるとは思ってなかったです(笑) 本当に人生は何が起こるか分かりません。自分がこんな演技者になるというか……。タカラジェンヌ・愛月ひかるでもありましたが、役者・愛月ひかるになれるとは思っていなかったので。でも思っていなかったからこそ、楽しかった! 役者として、こんな役もあんな役も任せてもらえたというのはとても嬉しかったです。もちろん苦労もありましたし、悩んで壁にも当たりました。
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在団中、一番印象的だった役は?