『青野くんに触りたいから死にたい』
著者:椎名うみ
一緒にいられればそれでいい、たとえ触れられなくても……
10代の頃の恋愛って、なぜあんなにもピュアだったのでしょう。それは、明日のことなんて考えないから。好きな人と一緒だったら何でもできそうな気がする一方で、好きな人と一緒にいられさえすればどうなってもいい、と思ってしまうのも、ピュアな愛の美しくも怖いところです。
高校2年生の刈谷優里は、人生で初めて喋った同級生・青野龍平に恋をします。思い切って告白したところ、あっさりOKの返事が。あれよあれよという間に彼氏ができ、幸せの絶頂にいたところ……。
青野は突然交通事故でこの世を去ってしまいます……。
悲しみのあまり、青野の後を追おうとした優里。しかし心配した青野の幽霊が優里の前に現れ、「ずっとそばにいる」と言ってくれます。が……、切ないことに青野と優里は決して触れ合うことができないのです。
「遠距離だから」、「仕事を続けたいから」etc. 大人になると様々な理由で別れを選ぶことも増えてきます。でも、ただ一緒にいられればそれでいい、触れることができなくても、そして未来を描くことができなくても……。そんな10代の純粋すぎる恋に、読みながら「いやいや」という現実的な自分と、どこか「うらやましい」と思ってしまう自分と、両方がいることに気付くかもしれません。
“今”しか見ない純愛の狂気
触れることはできなくても、青野がそばにいてくれさえすれば幸せな優里。彼氏が幽霊、という大きな問題はありますが、それでも読んでいると、普通の10代カップルの微笑ましい恋愛に、ちょっとキュンキュンしてしまいます。
ところが、優里がふと「青野くんは私に憑依したりできないのかな」とつぶやいたところ、突然青野の人格が豹変します。そして、優里の体に入ってくる青野……。
ここから物語は一転、“キュン”と“ホラー”が入り混じり始め、俄然面白くなってきます。どうやら青野は、ただ優里のそばにいてくれる優しい幽霊ではないよう。もしかしたら青野の一緒にい続けることは、破滅を意味するのかもしれない……。それでも、好きな人と一緒にいられさえすればどうなってもいい、と思う優里。これぞ、若さゆえの純愛の狂気と言えるでしょう。
不幸になると分かっていても一緒にいたい……
しかし青野と一緒にい続けることは、優里の身に危険を及ぼす可能性が高いよう。青野の親友だった藤本と、ホラー事情に詳しいクラスメイトの美桜と一緒に、優里は青野が成仏する方法を探し始めます。
しかしここからが、ピュアな恋愛の怖いところ。分かっていても、いざ青野が自分の目の前から消えてしまうかもしれないとなると、冷静な選択もできなくなってしまうのです。どうなってもいい、ただ一緒にいられれば、と……。
彼といることが幸せにはつながらない、それどころか不幸な結果をもたらしてしまうかもしれない……。そう思ったとき、果たしてアナタはお互いのために別れを選ぶことができるでしょうか? そして優里は……?
愛する人たちとのつながりについて、あらためて考えさせられるコロナ禍の今。『青野くんに触りたいから死にたい』を読んで、愛することにただただ真っすぐだったあの頃の自分を思い出してみるのも、また良いのかもしれません。
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取材・文/山本奈緒子
Edited by VOCE編集部
公開日: